₁₂₆.出来高払制の保障給


平均賃金を使うとき オマケ・保障給と最低賃金



 法令で基準がはっきり決まっているものではないが『出来高払制の保障給』は、『平均賃金』との関係で目安が定まるので、保障給を決めようとすると平均賃金を計算する必要が出てくる。

 出来高払制というのは ー 6.営業手当は非常にまれでも歩合給 ー で触れた『歩合給』と同じだ。ここでの『営業手当』のように、給与のごく一部に歩合給が含まれている程度では考慮する必要はないが、給与の4割超が歩合給になっている場合は、これが少なすぎると生活できない場合が出てくる。
 そのため、こうした場合でも一定の給与は保障すべきということで『出来高払制の保障給』というものが設定されている。

『出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じて一定額の賃金の保障をしなければならない。』(労基法27条)

というものだ。ここに『請負制』という言葉が出てくるが、労働者でない請負の場合には適用されない。

 法律では『保障給』の基準は示されていないが、休業手当と同じく『平均賃金の6割程度』以上というのが行政解釈のようだ。
 

最低賃金を下回るとOUT

 
 完全出来高払制で、平均賃金が月影さんと同じく9,295円68銭の場合なら保障給は

9,295.68円 × 60% ≒ 5,577円

となる。では、1日当たりこの金額を保障すれば問題ないのか?

 実はフルタイムの場合なら問題は大ありだ。この日8時間働いて5,500円の歩合給だったとする。行政解釈に従って『保障給』5,577円との差額77円を追加支給したとしても、これではどの都道府県でも最低賃金を切っているのだ。

 出来高払制の『保障給』は目安だが、最低賃金は絶対的な基準だ。実際これでは

5,577円 ÷ 8h ≒ 697円/h

にしかならない。
 この日の支給額が5,577円で最低賃金の問題がないのは、最賃960円の北海道ではこの日の労働時間が5時間48分以内の場合・東京なら5時間以内の場合だけだ。

 休業手当のところでは、計算の結果最低賃金未満となっても『実際に働いた場合ではないので問題はない』( ー ₁₁₈.平均賃金を使うとき②・休業手当 ー )と書いたが、この場合は実際に働いているので最低賃金を下回ることはできない。
 結局、労働時間が8時間の場合は最低賃金との関係で、

北海道なら  960円/h × 8h ≒ 7,680円
東京なら  1,113円/h × 8h ≒ 8,904円

は保障しなければならない。

 ここで、その6割が最低賃金を切らないもとの平均賃金を考えると、北海道の場合(最低賃金960円/h)なら『960円÷60%=1,600円』なので、1日8時間なら12,800円の場合であることが分かる。
 平均賃金が12,800円ということは、月384,000円(直近の賃金〆切日以前3ヶ月間の歴日数が90日の場合)だ。東京なら同様の条件で月445,200円になる。

 給与の月額がこの金額程度以上であれば、保障給を平均賃金時間額の6割を下回らないように決めておけばよいが、この金額程度より低ければ、最低賃金を考慮しなければならないということになる。

 出来高払制の保障給に関しては、給与水準にもよるが『平均賃金の6割以上』の基準は比較的クリアしやすいだろうが、『その金額が最低賃金を切ってはいけない』という基準の方が厳しいかもしれない。
 

・ 保障給は『労働時間に応じて』

 
 もう1つ休業手当と違うのは、条文に『労働時間に応じて』という文言が入っているように、その日の労働時間が短いなら短いなりに、長いなら長いなりに、その労働時間に対応した給与を保障しなければならないということだ。

 逆に言うと、労働時間が短い日には、平均賃金の時間単価の6割程度の労働時間分を保障すればよい。

 休業手当の場合は、元々の所定労働時間が短い日が休業になった場合でも『平均賃金(もちろん1日分)の6割』を保障しなければならない( ー ₁₁₈.平均賃金を使うとき②・休業手当 ー )ことになっていると書いた。

 これが出来高払制の保障給の場合は、所定労働時間が元々短い日については、実施に労働した時間に応じた保障がなされていれば労基法上の問題はない。

 また、必ずしも『1時間あたりいくら』と明示しなくても、『1時間あたり、過去3ヶ月間の賃金を過去3ヶ月間の労働時間で除した金額の6割を支給する。』等、実質的にその水準が維持できる金額なら良い。

 もちろん、会社の都合で労働時間を短縮したような場合は『休業手当』の支給対象となるので、その日については平均賃金の6割以上の支払が必要になる。
 

自動車運転者は『通常の賃金』の6割

 
 以上は一般の事業の場合だが、自動車運転者(以下ドライバー)に関してはこれとは別にもっと踏み込んだ規定がある。
 ドライバーの賃金制度について、

『歩合給制度が採用されている場合には、労働時間に応じ、固定的給与と併せて通常の賃金の六割以上の賃金が保障されるよう保障給を定めるものとすること』(1989.3.1基発93号)

 というものだ。
 つまり、ドライバーについては平均賃金ではなく『通常の賃金』を基にして保障給を定めなければならない。さらに、一般の事業のように6割『程度』ではなく、厳密に6割以上の保障給が必要になる。

 実際に給与計算に携わっている方なら分かると思うが『平均賃金』と『通常の賃金』1日分とでは、かなりの差が生ずるのが普通だ。

 たとえば、1日8時間・月21日労働で月平均42万円稼ぐ完全歩合給の労働者がいたとする。この方の最低保障給を考えると…

・ 一般の労働者の場合

42万円/月 × 3ヶ月 ÷ 90日 = 14,000円 ➡ 8,400円(程度)
       平均賃金

 平均賃金は14,000円(前3ヶ月の歴日数が90日とする)になるのでこの6割、1日8,400円(1,050円/h)程度を保障すればよい。ただし、この金額は、東京・神奈川・大阪では最低賃金を割り込むので、その地域では、最低賃金分の保障が必要になる。

・ ドライバーの場合

 42万円/月 ÷ 21日/月 = 20,000円 ➡ 12,000円
       通常の賃金

 この場合は『通常の賃金』が基になり、これは1日2万円となるので、その6割で1日12,000円(1,500円/h)を保障しなければならない。

 

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2024年03月08日