₂₄₂.派遣元・派遣先責任者の要件と業務



 労働者派遣とは、労働者派遣法第2条によれば、
 

 自己雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること
 

ということになっている。図示すると、派遣元(上では『自己』)・派遣先(上では『他人』)・派遣労働者の3者が次のような関係にある場合だ。
 

           労働者派遣契約
  派遣元 ☚━━━━━━━━━━━━━━☛ 派遣先
                      
   ┗━━━━━━☛派遣労働者☚━━━━━━━┛
     雇用関係         指揮命令関係
 

 契約関係が複雑になるので、派遣労働者の場合は通常の労働関係と比べて数多くの規制があり、それが『労働者派遣法』に書かれている。

 そのため、この法律全体に話を広げると終わらなくなるので、今回は労働者派遣法で定められている『派遣元責任者』・『派遣先責任者』の選任の要否・責任者の要件・業務に絞って説明する。
 

派遣元責任者

 
 労働者派遣をしている事業主であれば、派遣労働者が1人でもいれば『派遣元責任者』の選任の義務がある。
 

・ 派遣元責任者の要件

 
 労働者派遣法第36条では、派遣元責任者について、
 

 派遣元事業主は、(略)第六条第一号、第二号及び第四号から第九号までに該当しない者(未成年者を除き、派遣労働者に係る雇用管理を適切に行うに足る能力を有する者とし、厚生労働省令で定める基準に適合するものに限る。)のうちから派遣元責任者を選任しなければならない。
 

と定めている。これでは何のことやら分からないので『要件に合致しているのかどうか、あやしい!』という場合は条文に当たってもらうしかないが、おおむね派遣元責任者の要件は次のようになる。
 

○ 派遣元責任者の要件
 

 派遣元責任者となるためには、次の要件をすべて満たす必要がある。
 

  ① 拘禁刑以上の刑に処せられて5年以内でない
  ② 特定の労働法等の違反で罰金以上の刑に処せられて5年以内でない
  ③ 破産手続き開始の決定を受けて復権していない方ではない
  ④ 労働者派遣事業の許可(以下『派遣許可』)を取消されて5年以内ではない
  ⑤ 本人が役員だった法人が派遣許可を取消されて5年以内でない
  ⑥ 派遣許可取消処分までに派遣事業廃止を届出て5年以内でない
  ⑦ 派遣許可取消通知前60日以内に役員だった場合、廃止届出から5年以内でない
  ⑧ 暴力団員または暴力団員でなくなった日から5年以内でない
  ⑨ 未成年者の場合、法定代理人が①~⑧・⑩の要件を満たしている
  ⑩ 法人役員全員が①~⑨の要件を満たしている
  ⑪ 暴力団員がその事業活動を支配または従事し、補助者となっていない
  ⑫ 成人で、成人に達した後、雇用管理の経験が3年以上ある。
  ⑬ 『派遣元責任者講習』受講後3年以内である
  ⑭ その法人の監査役でない
 

 ①~⑪は他の法律でもよく見られるもので、過去5年以内に受刑・破産したか、役員となっていた法人が派遣許可を取消しになったり、暴力団員だった方が関係者にいたなどの事実がない場合は問題ないだろう。

 ⑫で『成人』とあるのに⑨で未成年者の場合が書いてあるのは、⑩の要件があるからだ。つまり『派遣元責任者』が成人であれば、その法人役員の中に未成年者がいてもいいが、その未成年役員の法定代理人は①~⑧・⑩の要件を満たしていなければならない。
 

・ 派遣元責任者講習は必修

 
 ⑬の『派遣元責任者講習』というのは、派遣元責任者は相当の法律知識や実務上の要点が分かっていないと勤まらないので、そうした知識等を身に付けるための講習だ。内容はほぼ次のようなものになっているようだ。

  ○ 労働者派遣法
  ○ 労働者派遣事業運営の状況
  ○ 派遣元責任者の職務遂行上の留意点
  ○ 労働基準法の適用に関する特例
  ○ 関係法令
  ○ 個人情報保護の取扱い
  ○ 公正な採用選考の推進
 

 大体1日日程のものが多いようだが、この講習の受講は必須でしかも3年に1回は受講する必要がある。
 

・ 派遣元責任者の業務

 
 派遣元責任者の業務としては、次の事項がある。

  ① 労働者に対する派遣労働者であることの明示・または同意を得ること
  ② 派遣労働者に対する就業条件等の明示
  ③ 派遣先への法定事項の通知
  ④ 『派遣元管理台帳』の作成・保存
  ⑤ 派遣労働者への助言・指導
  ⑥ 派遣労働者からの苦情の処理
  ⑦ 派遣労働者の個人情報の管理
  ⑧ 派遣労働者に対する教育訓練の実施・職業生活設計に関する相談の機会確保
  ⑨ 派遣労働者の安全衛生に関する、統括管理者・派遣先との連絡調整
  ⑩ その他派遣先との連絡調整
 

派遣先責任者

 
 派遣先(派遣労働者を受け入れる側)にも『派遣先責任者』を置かなければならないが、これが義務となっているのは、その事業所で働いている労働者が6人以上と『なる』場合だ。

 つまりその事業所で、
 

直接雇用の労働者  派遣された労働者  5人
 

の場合に『派遣先責任者』の選任が義務になる。結局、元々の労働者数が5人以上の場合は、派遣労働者を1人でも迎え入れれば『派遣先責任者』を置かなければならない。
 

・ 派遣先責任者の要件

 
 派遣先責任者は、事業場ごとに自ら雇用する者の中から選任する。『派遣元』のような厳しい要件はない。事業主や法人役員が『派遣先責任者』となることも認められるが、監査役がダメなのは派遣元と同じだ。

 派遣先責任者には、労働関係法令の知識・人事労務管理の専門知識や実務経験等、職務を的確に遂行できる者を選任するよう努める必要がある。
 

・ 派遣先責任者の業務

 
 派遣先責任者の業務としては次のようなものがある。

  ① 適用される労働関係法令や結んだ労働者派遣系お役の内容などの関係者への周知
  ② 派遣受入期間の変更通知に関すること
  ③ 派遣先管理台帳の作成・記録・保存
  ④ 派遣労働者からの苦情の処理
  ⑤ 安全衛生に関すること
  ⑥ 派遣元との連絡調整
 

 ①は、派遣法や労基法・安衛法などによる法律の規制を、主に派遣労働者に指揮命令する立場の方に周知することが中心になる。

 ②は、派遣先が派遣可能期間を延長したとき、派遣労働者が場所ごとの業務について派遣が不可となる日について派遣元に通知しなければならないので、その通知。

 ③の『派遣先管理台帳』とは、業務内容・就業状況等所定の事項を記載するもので、3年間の保存義務がある。ただし、自ら雇用する労働者と合わせて5人以下の事業所は作成の義務はない。

 つまり派遣先責任者の選任が義務となっている事業主なら必ず作らなければならない。これについては次回詳しく説明する。

 ⑥の連絡調整の内容は主に、健康診断・安全衛生教育・安全衛生上の契約事項の実施状況だ。
 

・ 派遣先責任者講習

 
 『派遣先責任者講習』というものもあり、厚労省は『派遣先責任者に受講させることが望ましい』としているので、義務ではないが職務をしっかり果たすためには受講を考えるのもいい。

 講習はおおむね3~5時間程度のようだ。

 

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2025年07月01日