社会保険加入者の健康保険料や介護保険料・厚生年金保険料は、給与なら『標準報酬月額』・賞与なら『標準賞与額』に保険料率をかけて求めることになるが、今回は『標準報酬月額』について、全体としてはどういう構造になっているのかを考える。
まず、ある報酬月額について、健康保険と厚生年金でそれぞれどういう標準報酬になるのかを表すと次のようになる。
これ自体はよく見かける表だが、『幅』というのはその標準報酬に収まる報酬月額の幅・構成率とは、2025年3月における協会けんぽ加入者の割合を示す。
健康保険と厚生年金の標準報酬月額
報酬月額 健保標準報酬 幅 構成率 厚生年金標準報酬
1円~ 5.8万円 (1万円) 0.79% 8.8万円
6万3000円~ 6.8万円 1万円 0.09% “
7万3000円~ 7.8万円 1万円 0.26% ”
8万3000円~ 8.8万円 1万円 0.28% ”
9万3000円~ 9.8万円 8000円 0.94% 9.8万円
10万1000円~ 10.4万円 6000円 0.25% 10.4万円
10万7000円~ 11万円 7000円 0.41% 11万円
11万4000円~ 11.8万円 8000円 0.67% 11.8万円
12万2000円~ 12.6万円 8000円 0.67% 12.6万円
13万円 ~ 13.4万円 8000円 0.86% 13.4万円
13万8000円~ 14.2万円 8000円 0.99% 14.2万円
14万6000円~ 15万円 9000円 1.85% 15万円
15万5000円~ 16万円 1万円 2.04% 16万円
16万5000円~ 17万円 1万円 2.54% 17万円
17万5000円~ 18万円 1万円 3.17% 18万円
18万5000円~ 19万円 1万円 3.31% 19万円
19万5000円~ 20万円 1万5000円 6.48% 20万円
21万円 ~ 22万円 2万円 7.73% 22万円
23万円 ~ 24万円 2万円 7.82% 24万円
25万円 ~ 26万円 2万円 8.24% 26万円
27万円 ~ 28万円 2万円 6.95% 28万円
29万円 ~ 30万円 2万円 7.28% 30万円
31万円 ~ 32万円 2万円 5.24% 32万円
33万円 ~ 34万円 2万円 4.44% 34万円
35万円 ~ 36万円 2万円 4.23% 36万円
37万円 ~ 38万円 2万5000円 3.96% 38万円
39万5000円~ 41万円 3万円 4.18% 41万円
42万5000円~ 44万円 3万円 2.84% 44万円
45万5000円~ 47万円 3万円 1.92% 47万円
48万5000円~ 50万円 3万円 1.99% 50万円
51万5000円~ 53万円 3万円 1.03% 53万円
54万5000円~ 56万円 3万円 0.86% 56万円
57万5000円~ 59万円 3万円 0.88% 59万円
60万5000円~ 62万円 3万円 0.44% 62万円
63万5000円~ 65万円 3万円 0.43% 65万円
66万5000円~ 68万円 3万円 0.26% ”
69万5000円~ 71万円 3万5000円 0.49% ”
73万円 ~ 75万円 4万円 0.30% ”
77万円 ~ 79万円 4万円 0.38% ”
81万円 ~ 83万円 4万5000円 0.23% ”
85万5000円~ 88万円 5万円 0.23% ”
90万5000円~ 93万円 5万円 0.13% ”
95万5000円~ 98万円 5万円 0.35% ”
100万5000円~ 103万円 5万円 0.11% ”
105万5000円~ 109万円 6万円 0.13% ”
111万5000円~ 115万円 6万円 0.07% ”
117万5000円~ 121万円 6万円 0.15% ”
123万5000円~ 127万円 6万円 0.08% ”
129万5000円~ 133万円 6万円 0.11% ”
135万5000円~ 139万円 (6万円) 0.91% ”
標準報酬の刻み幅は一定でない
・ 25万円・35万円という標準報酬はない
役員の方など『定期同額給与』を支給されている方から、「報酬が月25万円なのに標準報酬が26万円になっているよ。間違いじゃないの?」というような質問を頂くことがある。
35万円のときも同様だ。なぜか知らないが役員報酬は『○十万円』キッカリという例が多く、次に多いのが『○十5万円』で、『25万円』『35万円』というのも結構ある。
標準報酬が1万円刻みなのは8万8000円以下と15万円から20万円までの間だけで、20万円から38万円までは2万円刻みになっている。25万円や35万円という標準報酬はない。25万円から26万9999円までは、まとめて26万円の標準報酬になってしまうのだ。
上の例の場合は、役員報酬を1円下げて24万9999円にすれば標準報酬は24万円になるので、月々の社会保険料は本人会社の合計で月6000円程度は減額になる。
ただ、役員報酬の場合は取締役会や株主総会で変更できる一方、原則1年間の『定期同額』の縛りがあるので、いつでも変更できるわけではない。
もちろん社会保険料が下がる影響でいくらか本人の所得税は増える。また将来の年金額も減ることになるので、損得は考えから次第ということになるだろう。
ちなみに38万円からは3万円刻み・71万円になると4万円刻み・83万円以上は5万円刻み・103万円以上になると6万円刻みになる。
・ 標準報酬の幅は10%以内
上の表をざっとながめると、ある標準報酬に入る報酬月額の範囲は8万8000円以下の場合を除いてすべて、その標準報酬の10%以内に収まるようになっている。10%以内に収まっているということは、標準報酬と報酬月額の差は5%以内になっているということだ。
これがあまり離れていれば『標準報酬』の名にふさわしくないし、あまり小刻みでもかえって煩雑になり、何のために標準報酬を設定したのか分からなくなる。このくらいが順当なところといえるだろう。
・ 標準報酬26万円が最も多い
上の表で『構成率』(加入者割合)をみると、標準報酬26万円という方が8.24%で最も多い。
また、社会保険適用拡大で相当増えたかと思われた8万8000円程度の方は、これをみるとどこも1%以下にすぎない。
標準報酬『103万円』以上の境目は、中間より5000円下
標準報酬については『四捨五入』的で、中間地点『以上』が上のランクに入ることが多い。実際103万円以下ではすべてその中間地点が、どちらの標準報酬になるかの境目になっている。
ただし103万円とその上の109万円の境界は、106万円ではなく105万5000円だ。さらに上のランク間の境界も、『中間地点』の5000円下が標準報酬の境界になっていて、これ以上になると上のランクになる。
この理由は(筆者には)不明だ。
考えられる要因は、1992年度から2007年度までは最高等級が98万円で、83万円以上が5万円刻みだったことだ。
どこかで書くが月額変更の基準の関係で、最高等級の上にもう1ランク仮想的な報酬範囲を決めておく必要がある。
この当時は最高ランク近辺は5万円刻みだったので、最高等級の1ランク上の報酬範囲は『100万5000円以上』となっていたのだろう。それが数度の標準報酬追加の際にも正されず、化石のように定着してしまったのではないだろうか。
これはあくまで筆者の想像なので、正しい理由を知っている方がいたら教えていただきたい。その場合は確認の上、訂正します。
なお月額変更に使う、現在の最高等級の上の『仮想的な報酬範囲』は『141万5000円以上』となっている。
健康保険料の方が高額になる場合も
健康保険料率は2025年度で、最低が沖縄県の9.44%・最高が佐賀県の10.78%となっている。40~64才なら介護保険料(1.59%)を含めて11.03%~12.37%になる。もちろん事業主負担分を含めた全額の話なので、本人負担分はその半分になる。
厚生年金保険料率は全国一律18.3%(本人9.15%)なので、普通は社会保険料の中では厚生年金保険料が最も負担が重くなる。
ただし上の表のように厚生年金の標準報酬の範囲はせまく、最高65万円しかない。
そのため一定の収入を超えると健康保険料の方が負担が重くなる。きわどい場合を示すと次のような場合だ。
厚生年金保険料 標準報酬65万円以上で 5万9475円
健康保険料(40才未満・65才以上) 9.44%~10.78%(━━━━━━━)
健康保険料(40~65才) 11.03%~12.37%(━━━━━━━)
厚生年金保険料
5万9475円
5万円 5.5万円 ↓6万円 6.5万円
標準報酬 ▼ ▼ ▼▼ ▼
5万2822 5万4047 :6万1013
98万円…━━━━━━━ ━━━━━━━━━━━━━━
5万5517 5万6804 : 6万3705
103万円…━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━━━━━━
5万1448 5万8751 :6万0113
109万円 ━━━━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━━━━━…
5万4280 : 6万1985 6万3422
115万円 ━━━━━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━…
5万7112 : 6万5219
121万円 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━
:5万9944
127万円 ━━━━━━━━━━━━━…
このように、標準報酬98万円でも、40~64才なら健康保険料率が高い地域では厚生年金保険料を超す。
40才未満・65才以上でも115万円以上になると、地域によっては厚生年金保険料を超し、127万円以上になると、どういう場合でも厚生年金保険料より健康保険料の方が高くなる。