₂₄₈.健康保険と厚生年金の『標準報酬』は違う



 ここからしばらく(狭義の)社会保険料がどう決まるかという話になる。

 『狭義の』というのは、社会保険料というのは広い意味では『労働保険料』も入るので、労働保険料を除いた社会保険料という意味だ。

 『労働保険料』といってもその1つの『労災保険料』については個人負担はないので、通常の給与計算で考慮することはまずない。つまり『(広義の)社会保険料のうち雇用保険料を除いたもの』ということになる。
 

給与は『標準報酬』・賞与は『標準賞与額』で保険料決定

 
 雇用保険料なら給与も賞与もない。十把ひとからげに『総支給額』に被保険者分の『雇用保険料率』をかけて『五捨五超入』(₂₄₄.社会保険料は本人0.5円『以下』切捨て)すれば終わりだ。

 しかし狭義の社会保険料については、その時その時の『総支給額』に保険料率をかけてもダメだ。

 保険料率をかける対象になるのは、給与なら『標準報酬』・賞与なら『標準賞与額』ということになっているからだ。
 

標準報酬と標準賞与額

 
・標準報酬

 
 どんな被保険者の月額給与にも、必ず対応する『標準報酬』があるので、それが保険料を決めるときの『保険料率』をかけるもとになる。

 標準報酬は健康保険と厚生年金に分かれていて、何事もなければ毎年1回9月分から1年間同じものが適用される。また、健康保険については毎年3月分から新しい保険料率になるので、そのタイミングで各都道府県ごとに『保険料額表』として公表される。

 健康保険と厚生年金の『標準報酬』そのものは、現在次のようになっている。
 

          最低             最高

健康保険    5万8000円(第1級)  ~  139万円(第50級)

厚生年金    8万8000円(第1級)  ~   65万円(第32級)
 

・ 標準賞与額

 
 標準賞与額は、賞与の支給ごと(正確には支給された月ごと)に、賞与額を1000円単位に『切捨て』したもので、たいして頭は使わなくていい。ただし、次の上限に達したときはその金額になる。
 

健康保険   年度ごとに 573万円

厚生年金   月ごとに  150万円
 

厚生年金の標準報酬範囲はなぜ狭い

 
 標準報酬については、厚生年金の標準報酬の範囲は健康保険のそれの半分程度だ。なぜこういうことになっているのか。

 つまり健康保険料については月額報酬が140万円近くまで報酬に比例して保険料が増額されていくが、厚生年金保険料は月額報酬65万円で頭打ちになり、これ以上報酬が増えても保険料は増えないことになっている。これはどうしてかという疑問だ。

 これは、健康保険と厚生年金から支給される『保険金』の性格によるものといえる。
 

・ 健康保険の給付は誰にでも公平

 
 保険者側から見れば、健康保険は負傷疾病に対して支給されるものなので、高額の報酬を得ている方からは保険料もそれなりに支払ってもらっていい。

 一部『傷病手当金』のように標準報酬に応じた給付もあることはあるが、ケガや病気の診断・治療など、ほとんどの保険給付は誰に対しても公平なので、保険者の支出が保険料に比例して高額になることはないからだ。
 

・ 厚生年金をあまり高額にすると給付が…

 
 しかし厚生年金の給付は年金給付が中心になるので、保険料を報酬に比例してどんどん高く取ると、その方が老齢などで年金をもらう立場になると、それに伴って高額の年金を支払わなければならなくなる。

 もしそれが可能だとしても、あまりに超高額な年金で贅沢三昧されれば『社会保険として如何なものか』という批判を受けることにもなるだろう。

 厚生年金『保険』である以上、給付のときを想定して保険料を設定しなければならないので、税金のように『取れるところから取れるだけ取れ!』ということはできないのだ。

 ということで、健康保険と厚生年金では『標準報酬の範囲』に違いがある。
 

・ 最高等級の決め方にも違いが

 
 最近は特にそうだが、物価上昇に賃金の伸びが追い付かず生活が徐々に苦しくなるということはある。それでも名目の賃金は徐々に上昇していくのが普通だ。

 『標準報酬』は名目賃金と直結しているので、この基準をそのままにしておくとだんだん現状に合わなくなってくるのは当たり前だ。どこかの時点で標準報酬の基準自体を変えていく必要がある。

 標準報酬の区分変更のうち、その時点の最高等級の上にさらに新しい等級を加えることについては、具体的に変更の基準が決まっている。

 ただし、上で書いたように健康保険と厚生年金の標準報酬ではその性格に違いがあるので、新しい等級を加えるときの基準も違っている。
 

健康保険の最高等級は上位1%

 
 ザックリいうと健康保険の場合は、最高等級となる被保険者の数が全体の1%程度になるように決める。

 もう少し細かくいうと、年度末3月31日において最高の標準報酬の方が全体の1.5%を超え、これが持続すると思われる場合に、その年の9月から、さらにもっと上の標準報酬を設けることができることになっている。

 ただし、その場合新しい標準報酬に属する方が全体の0.5%以上いなければならない。

 2025年度現在でいうと標準報酬139万円(報酬月額135万5000円以上)の方が1.5%以上になると、そうなる可能性が出てくる。

 ただし、こうした過程は自動的に進行するものではないので、最終的には厚生労働大臣が社会保障審議会の意見を聴いて決めることになる。上記の要件をクリアしたからといって必ず改訂されるとは限らない。

 近年では2016年、それまでの47級の上にさらに3つの等級を設ける改訂がなされている。
 

厚生年金の最高等級は平均の2倍

 
 厚生年金の最高等級の原則は、上に書いた理由から健康保険より『渋く』定められている。

 例によってザックリいうと、平均の標準報酬の2倍が最高等級になる。

 これも細かくいうと、同じく年度末の全員の標準報酬の平均の2倍が最高等級の標準報酬を超え、それが持続すると思われるときに、その年の9月からもっと上の標準報酬を設けることができる。

 ただ、どう考えても『平均の2倍』が『上位1%の方の報酬』を下回ることは明らかなので、厚生年金の標準報酬が新しく追加される場合は、厚生年金の最高等級に対応する健康保険の標準報酬の1ランク上が新しい厚生年金の標準報酬となるのが普通だ。

 法律上は『健康保険法…の標準報酬月額の等級区分を参酌して』政令で改定することになっている。

 たしかに健康保険と厚生年金が張り合って全くバラバラに標準報酬を設定したら分かりづらいことこの上ないので、このやり方は合理的といえる。
 

2027年9月から、厚生年金最高等級を追加

 
 実は2025年6月13日の国会でも厚生年金の最高等級引上げが決まっていて、2027年9月分から次のスケジュールで厚生年金の標準報酬の最高等級が引上げられることになっている。
 

        最高等級  標準報酬   報酬月額  厚生年金保険料(本人)

2025年現在     32級   65万円  63万5000円~  5万9475円

2027年9月分~  33級   68万円  66万5000円~  6万2220円

2028年9月分~  34級   71万円  69万5000円~  6万4965円

2029年9月分~  35級   75万円  73万円~      6万8625円

 
 つまり現在の報酬月額が73万円以上の方の場合、報酬がそのままなら2027年以降3年間は毎年厚生年金保険料が増え続ける

 ただしこのくらいの月収になると所得税もそれなりに取られているはずなので、社会保険料控除額の増加によって税金はある程度下がることになる。

 将来の年金額もその分増えることにはなるので、少しはなぐさめになれば…

 

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2025年07月25日