標準報酬は、基本的には4~6月の3ヶ月間に支給された給与の平均で決まり(定時決定)、固定的給与が変わったときにはその給与が支給された月以後3ヶ月間の平均によって変更後の標準報酬が決まる。
どちらも『3ヶ月間』で決めることになるが、その3ヶ月間がたまたま超忙しい時期で、その時期だけ36協定の限界ギリギリまで残業が多かったりすると、著しく実情に合わない標準報酬になってしまうこともあり得る。
そこで例外的に、定時決定については2011年から、月額変更(随時改定)については2018年から、年間平均で報酬月額を算定していい特例が設けられた。
 ただしこれは非常に要件が厳しく、特に、随時改定の年間平均についてはちょっとやそっとではその要件を満たさないので、あまり期待はしない方がいい。
 
年間平均で定時決定できる場合
 
 毎年7月10日までに提出する『算定基礎届』で、前年7月から当年6月支給までの平均を標準報酬の根拠としていい特例だ。この要件は次のようになっている。
 
・ 年間平均で算定する要件
 
 ① 特例による標準報酬が、4~6月支給平均による標準報酬と2等級以上の差がある。
② その差は業務の性質上、例年発生することが見込まれる。
③ 被保険者の同意書が提出されている。
 
・ 途中加入者も可
 
 上記①によれば過去1年間は在職していなければならないようだが、そんなことはなく、最短当年3月以前からの加入であれば対象になり得る。
ただし1年ない場合は、その全期間(最初の期間が1ヶ月ない場合はそれを除く。)が『年間平均』になるので、加入期間が短ければ短いほど4~6月支給との差が2等級に達するのは難しいだろう。
②は、たまたまその年だけ4~6月支給が多かった(翌月支給なら3~5月が忙しかった)というだけではダメで、その差が『業務の性質上』例年発生することが見込まれる必要がある。
 ③の『同意書』というのは、原則は4~6月支給で算定するので、この例外を適用すると将来の年金額の減少など本人に不利益をもたらす部分もあることから、例外適用には本人の同意が必要となったものだ。
 
・ 年間平均での定時決定の例
 
 支給月  支給額  原則     年間平均
 7月   25万円        ┓
 8月   25万円        ┃
 :     :         :
 2月   25万円        ┃26.5万円
 3月   28万円        ┃(26万円)
 4月   29万円 ┓       ┃
 5月   31万円 ┃30万円   ┃
 6月   30万円 ┛        ┛
 
この場合は、原則の標準報酬は30万円だが年間平均から算定すると26万円で2等級差があるので、この差が業務の性質上例年発生することが見込まれ、本人の同意がある場合は26万円とできる。
 ちなみに4~6月支給の増加分ー月5万円というのは、25万円が固定給である場合の残業代と考えるとザックリ月26時間分程度だ。
 
年間平均で月額変更(随時改定)できる場合
 
 月額変更(随時改定)とは、固定的賃金が変動して以後3ヶ月間の給与平均が従前の標準報酬から2等級以上の変化があったときに標準報酬を改定する(詳しくは『₂₅₂.随時改定(月変)になる場合・ならない場合』)というものだ。
これについても2018年から年間平均で算定できる特例ができた。
趣旨としては、昇給月以後3ヶ月間の給与に通常よりかけ離れて多くの残業等の非固定的給与が含まれていた影響で、その後の標準報酬が著しく高くなるのは妥当でないという判断だ。
 ただしこれについては非常に条件が厳しく、昇給月後少しぐらい残業が多くても適用になるものではない。
 
・ 月額変更(随時改定)に年間平均を適用できる要件
 
 ① 従前の標準報酬と、通常の随時改定による標準報酬に2等級以上の差がある。
 ② 次の ア(通常) と イ(特例) に、2等級以上の差がある。
   ア. 通常の随時改定による標準報酬
   イ. 固定的給与が変動以後、3ヶ月間の固定的給与の平均に
     変動月の9ヶ月前から1年間の非固定的給与の平均を加えたもの
     から算出した標準報酬
③ 従前の標準報酬と、②のイによる標準報酬に、1等級以上の差がある。
④ ②の差が、業務の性質上例年発生することが見込まれる。
 ⑤ 被保険者の同意書が提出されている。
 
・ 変動後の固定的給与+非固定給の年間平均が重要
 
 ①は当たり前で、固定的給与変動以後3ヶ月間の報酬平均が従前の標準報酬と2等級以上の差がなければ、そもそも随時改定の対象にならない。
②は、何を言っているのか理解するのがなかなか難しいと思う。
イの前段の『3ヶ月間の固定的給与の平均』は、普通は単純に変動後の『固定的給与』と考えていい。しかし、ある固定的給与(たとえば月給)変動月以後3ヶ月の間にほかの固定的給与の変動があることもあるので『固定的給与の平均』という表現になっている。
イの後段、『変動月の9ヶ月前から1年間の非固定的給与の平均』とは、随時改定算定月以前12ヶ月間の『非固定的給与』(残業代など)の平均額のことだ。
 つまり、
 
変動後の固定的給与 + 非固定的給与の年間平均
 
が、通常の随時改定による標準報酬と2等級以上の差があることが『特例発動!』の要件ということだ。
 ④・⑤は定時決定の場合と同じで、業務の性質上例年発生すると見込まれる事象であり、かつ、本人の同意がなければ適用できない。
 
・ 年間平均による月額変更(随時改定)の例
一例をあげるが、この例ではもともとの標準報酬が26万円の方だとする。
 支給月  固定給   変動給   原則   年間平均
 10月  25万円  1万円        ┓
 11月  25万円  1万円        ┃
 12月  25万円   0円        ┃変動給の年間平均
  1月  25万円  1万円        ┃ 2万2500円
  2月  25万円  2万円        ┃   +
  3月  25万円  1万円        ┃変動後の固定給
  4月  25万円   0円        ┃  26万円
  5月  25万円  1万円        ┃   ꡷
  6月  25万円  2万円        ┃ 28万2500円
  7月  26万円  5万円  ┓     ┃ (28万円)
  8月  26万円  7万円  ┃32万円 ┃
  9月  26万円  6万円  ┛     ┛
 
これは7月支給から基本給が1万円昇給した例だが、毎年夏場忙しい職場で、7~9月支給の残業代が多かったものだ。
通常の月額変更(随時改定)では7~9月支給の平均が32万円となり、これが翌月からの標準報酬になるが、年間平均で見ると28万円でこれとは2等級の差があるので、他の要件を満たせば28万円が新しい標準報酬になる。
ちなみにここで〝26万円➡28万円なら(1等級増なので)月額変更ナシ〟とはならないのでご注意。