₁₄₀.賞与の税率は前月支給の給与で決まる


給与等からの控除Ⅳ 賞与にかかる税金



⑤ 源泉所得税

 
 賞与からの所得税の算出方法は独特だ。原則、賞与から控除する所得税の税率は『前月に支給された給与』で決まる。今回は『給与所得者の扶養控除等申告書』提出の方で考える。
 つまり、8月支給の賞与の所得税率は、月末〆・翌10日払いなら6月分、15日〆当月25日払いなら7月分の給与で決まることになる。

 毎月の給与計算を自社で行っている事業所(もちろん個々人のデータはある。)から賞与の計算だけ頼まれることもあるが、前月支給された給与データがなければ、保険料は算出できても税額は計算できない。
 

・賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表

 
 賞与の税率は、国税の方から出ている『賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表』(以下『賞与の表』)というのを使う。
 前月支給の給与の『社会保険料等控除後の金額』(以下『前月支給給与分』)と『扶養親族等の数』から賞与の税率を出すのだが、この『賞与の表』の見方も独特だ。

 2次元の表というのは縦軸と横軸からその交差する所の値を読むのが普通だが、『賞与の表』はまず横軸で該当する『扶養親族等の数』のところを下に見ていく。
 〇千円以上〇千円未満というのが並んでいるので、『前月支給給与分』が当てはまるところに来たらそこを左に進み、ぶつかった縦軸の数字が『賞与の税率』という仕掛けだ。

 だから、Excelでやろうという場合、この表をそのまま取り込んでVLOOKUP関数等で直接求めることは難しい。この表の左側にもう1列、INDEX関数等でそのときの『扶養親族等の数』で税率が上がる境目の金額が表示される列を作っておくなどの対策が必要だ。たとえば一部抜粋すると次のようになる。

扶養親族等の数 3⃣ 人

  C D E F G H
3 3⃣人 税率 0人 1人 2人 3人
4 -99,999 0.000% -99,999 -99,999 -99,999 -99,999
5 171,000 2.042% 68,000 94,000 133,000 171,000
6 295,000 4.084% 79,000 243,000 269,000 295,000
7 345,000 6.126% 252,000 282,000 312,000 345,000
8 398,000 8.168% 300,000 338,000 369,000 398,000

 

 一旦こうしておけば、1・2列目だけで税率を求められる。
 この税率だが、2.042%・4.084%…といかにも半端だ。これは何かというと、東日本大震災の影響で、2037年まで復興特別所得税が徴収されることになっているのが理由だ。

 賞与の社会保険料等の非課税分は単独で求められるので( ー ₁₃₉.賞与からの控除 ー 社会保険料 ー )、その金額に上で求めた税率をかければ賞与の税額が求められる。たとえば扶養親族等の数が0人で『前月支給給与分』25万円の方なら『賞与の表』から税率は4.084%だ。この方(40歳未満とする)が50万円の賞与をもらった場合、

・ 支給賞与    500,000円
・ 健康保険料   500,000円 × 10.21% ÷ 2 = 25,525円
・ 厚生年金保険料 500,000円 × 18.3%  ÷  2 = 45,750円
・ 雇用保険料   500,000円 × 0.6%  ÷  2 =   3,000円
  社会保険料計                      74,275円

なので、賞与の『社会保険料控除の金額』は

500,000円 ー 74,275円 = 425,725円

に税率をかけて、

425,725円 × 4.084% ≒ 17,386円

が求める所得税額になる。
 

前月支給の給与がない…等、イレギュラーな場合

 
 ただ、一筋縄ではいかないイレギュラーな場合もある。
 典型的には労災や私傷病等理由はいろいろあると思うが、欠勤等で前月支給の給与がない場合だ。その場合はこの方法は使えない。

 「前月支給がないなら、普通に『賞与の表』通り税率0%でいいではないか」という方もいるかもしれないが、そういうわけにはいかない。

 ほかにも使ってはならない場合として、

① 『前月支給給与分』が0円以下の場合
② 賞与の『社会保険料等控除後の金額』が『前月支給給与分』の10倍を超える場合

がある。
 もっとも、前月支給給与がない場合は必ず①の要件を満たすし、①の場合は必ず②の要件を満たすので、②は、『賞与の表』が使えない場合を包括的に表したものと言える。

 ここで『10倍を超える』というフレーズから《すごい高額な賞与だ!》と思いがちだがそうとも限らない。前々月欠勤が多くて『前月支給給与分』が少なければ、賞与がそこそこでもこのイレギュラーな部類に入る。
 

・ イレギュラーな場合は給与の『月額表』を使う

 
 たとえば、翌月払いの会社に勤める月給30万円の姫川さん(扶養親族等の数0人)が、6月に労災での欠勤があり、6月分給与が次のようになっていたとする。

    〇 支給額            〇 控除額
 ・基本給  300,000円    ・ 健康保険料   15,315円
 ・欠勤控除 215,000円    ・ 厚生年金保険料 27,450円  (社会保険料)
 ・総支給額   85,000円    ・ 雇用保険料      510円   43,275円
                 ・ 源泉所得税       0円
                 ・ 住民税     16,400円
                 ・ 控除額合計   59,675円
           差引支給額 25,325円

 住民税は関係ないので、『前月支給給与分』は

85,000円 ー 43,275円 = 41,725円

だ。ここで8月、姫川さんに50万円の賞与が支給される場合、上の例の方と同じで賞与の社会保険料74,275円になる。

なので、賞与の『社会保険料等控除の金額』も同じく 425,725円 となる。
                       (以下『賞与分』)
 この場合は、

『前月支給給与分』の10倍          『賞与分』
41,725円 × 10 = 417,250円   <   425,725円

となり、給与の月額表を使うことになるが、この使い方も次のように複雑だ。

① 『賞与分』÷ 6(※1)+ 『前月支給給与分』 ➡ 給与の月額表 ➡ 『税額』
② (『税額』ー 前月支給給与(※2)に対する税額 )× 6(※1)= 賞与の税額

※1 賞与の計算期間が6ヶ月を超えるときは12
※2 定額減税で減額されるときは本来の税額

と2段構えになる。
 同じ6で割ったりかけたり何をやっているかというと、前月支給の給与6ヶ月分に賞与を均等に加算すると税額がいくら増えるかを計算しているのだ。先の例に当てはめると、

① 425,725円 ÷ 6 + 41,725円 ➡ 給与の月額表 ➡ 1,340円
② ( 1,340円 ー 0円 ) × 6 = 8,040円

なので、この8,040円が賞与の税額だ。

 仮に、通常と同じように『賞与の表』で求めてしまうと、『前月支給給与分』が68,000円未満なので税率は0%。従って税率は0円となってしまう。
 

⑥ 住民税

 
ない。

 

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2024年04月30日