外国人労働者が10人以上なら選任が義務
『外国人労働者の雇用・労働条件に関する指針』の第5によって、雇用する外国人労働者が10人以上の場合は『外国人労働者の雇用労務責任者』の選任が義務となっている。
これについては業種の限定はないので、〝外国人を10人以上雇用しているが、雇用労務責任者はいらない〟という事業所はない。
ここでの外国人は日本国籍を有しない者をいうが、特別永住者と在留資格が『外交』・『公用』の者は含まない。
また『外国人労働者』には、『特定活動』の在留資格で技術・技能の習得のための活動を行う者(技能実習生)も含む。
外国人労働者の雇用労務責任者には人事課長等を選任し、外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が講ずべき措置とされる以下に関する業務を行わせることになっている。
・ 外国人労働者の雇用労務責任者の管理事項
① 外国人労働者の募集及び採用の適正化
② 適正な労働条件の確保
③ 安全衛生の確保
④ 雇用保険・労災保険・健康保険・厚生年金保険の適用
⑤ 適切な人事管理・教育訓練・福利厚生等
⑥ 解雇の予防及び再就職の援助
・ 具体的には…
具体的には①で在留資格の確認は欠かせない。あと日本語が堪能な方ばかりではないので、そういう方と主に労働条件について認識の相違がないようにすることも大切になってくる。
ただ実際のトラブル例を聞くと、言葉の問題よりむしろ文化・習慣の違いによるものが多いので、そのへんのすり合わせも重要だ。
外国人雇用状況届出義務
外国人労働者の雇入れ・離職に関しては『外国人雇用状況届出』の義務がある。
といっても雇用保険加入対象(週20時間以上かつ31日以上)となる方については、普通に雇用保険資格取得届・喪失届でハローワークへに届出れば、その義務を果たしたことになる。
これ未満の時数・期間の雇用保険加入対象外の、短期アルバイト等の方については日本人は届出義務はないが、外国人の場合は『外国人雇用状況届出書』を同じくハローワークに届け出なければならない。
・ 外国人雇用状況届出書の記載事項
書く内容は雇用保険の資格取得届・喪失届と似ているが、マイナンバーや被保険者番号等は不要で、次の通りとなっている。
① 氏名(フリガナも)
② 在留資格
③ 在留期間
④ 生年月日
⑤ 性別
⑥ 国籍・地域
⑦ 資格外活動許可の有無
⑧ 在留カード番号
⑨ 雇入れ・離職の年月日
労基法上は、均等待遇が大原則
大前提として労働基準法第3条は
使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について差別的取扱をしてはならない。
と定めている。
ここで『国籍、信条又は社会的身分』は限定列挙とされ、性別などこれ以外については対象外となるが、対象となる3つの筆頭に『国籍』を持ってきているのは象徴的だ。
そのあとの『賃金、労働時間その他の労働条件』の中の『賃金』や『労働時間』は単なる例示で、およそ『労働条件』はすべて当てはまることになっている。
つまり『国籍・信条・社会的身分』を理由とした労働条件についての差別的取扱いは一切ダメということになる。
ただし、労基法のこの条文について言えば、その方が使用者と契約して『労働者』となった後の話なので、『採用』については適用されない。
・ 憲法を上回る?労基法の規定
ということで、外国人労働者について別の労働条件ということはあり得ないことになる。これは有名な憲法の差別禁止の条項(憲法第13条)
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない。
よりも、この点に関しては徹底している。ただ、国は
一般に、外国人労働者は、国内に生活基盤を有していないこと、日本語や我が国の労働慣行に習熟していないこと等から、就労に当たって各種のトラブルが生じている。
(外国人労働者の雇用・労働条件に関する指針 第1)
ことから、トラブルの未然防止・雇用管理の改善等を目指して指針を出したものらしい。
不法就労となる場合
ここで、労働法上は国籍による労働条件の差別的取扱いはなくても、他の法律で就労が禁じられている場合がある。
出入国管理庁によると、不法就労となるのは次の3つの場合だ。
① 密入国や不法滞在者・在留期間が切れた方が働く場合
② その方が許可された在留資格以外の職業に就く場合
③ 出入国管理庁から認められた範囲(時間数など)を超えて働く場合
この場合は就労者も事業主も法違反に問われる。
・ 不法就労でも労働法は有効
当然ながら、上記のような不法就労だったとしても、労働基準法・最低賃金法・安衛法等の労働法規が無効になるわけではない。
もし、不法就労者に対して労働法に抵触する労働条件で働かせていたとしたら、事業主は(その労働法違反で)処罰や指導の対象になる。本人の不法就労に関する問題とは全く切り離して扱われることになる。
社会保険加入にも差異はない
というわけで、国籍による労働条件の差別は禁じられている。上記『雇用労務責任者の管理事項』の④つ目(広義の)社会保険加入についても差異はない。
まず、労災保険は個人ごとに加入するものではないので当然に適用になる。
雇用保険の加入要件も同じだが、後で述べるように手続上は若干の違いがある。
健康保険・厚生年金保険については、加入要件も手続き上も日本人との違いはない。支給の要件もほぼ同じだが『脱退一時金』については次回扱う予定だ。
・ 雇用保険は在留カードが必須
手続は事業主(か委任された社労士)が行うので『労働条件の差異』ではないが、外国人の場合は『在留カード』(コピー可)を提示し、『雇用保険被保険者資格取得届』に、残留期限・在留カード番号・在留資格等を記入しなければならない。
もちろんマイナンバーの記入が必要なのは日本人と同じ。
外国人の場合は最初の住民登録時にマイナンバーが割り振られるので、マイナンバーカードがない場合でも、マイナンバー入りの住民票を取ってきてもらえば分かる。
社労士の『職務上請求書』でもマイナンバー入りの住民票は取れないので、これは本人に取ってきてもらうしかない。
・ 氏名はローマ字+カタカナ
雇用保険や健康保険・厚生年金保険の加入時は当然、氏名の記入が必要だが、氏名は(たとえCJK漢字圏の方であっても)ローマ字で記入し、フリガナをカタカナで記入する。
フリガナは残留カードにもマイナンバーカードにも載っていないので、正しいカナが分からないときは住民票で確認する。意外と間違えやすいところだ。