₂₆₇.生活保護と就労・最低生活の保障



 さて超々高額所得者の話だった前回とは打って変わって、今回は生活保護の話題だ。誰でも知っている通り日本国憲法第25条は
 

 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を要する。

 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
 

と、国に対して義務を課している。

 生活保護は、この憲法第25条を具体化したものと言える。

 従って、十分根拠もなく時の政権の都合で〝ちょっと高すぎるから引き下げよう〟などということが許されないのは、2025年6月27日の最高裁判決を見ても明らかだ。

 なお生活保護は、生活扶助・住宅扶助・教育扶助・医療扶助・介護扶助・出産扶助・生業扶助・葬祭扶助の8種類とされている。

 こうして国は、その時々に応じて『最低限度の』生活水準を明示し、各人の生活水準がこれに満たない方には『差額を補充』する義務を負っている。
 

生活保護世帯の就労による収入分はカット?

 
 事業主の立場からいうと生活保護世帯の方を雇うこともあるだろうし、生活保護世帯の方にも就労意欲のある方もいるだろう。

 さて、こうした生活保護世帯の方の就労についてみると、別の問題も見えてくる。

 生活保護を受給しながら働く意欲を持った方、または働ける条件が出てきた方が働こうとした場合、生活保護は『最低限度』なので、この直前の時点でその方の生活水準は生活保護水準とピタリ同額だった…ということに理屈ではなる。

 従って、この方が保護費以外に収入が生ずれば最低限度を上回ることになる。つまり簡単に考えれば上回った部分は生活保護費から減額しなければならない。

 ただし上回った部分を全額カットするのは理不尽だということはちょっと考えれば分かる。
 

・ 就労するには経費がかかる

 
 まず、就労するにはそれなりの経費がかかる。通勤費が出ない場合はその経費もあるし、その他もろもろの経費がかかるのは誰しも認めるところだろう。
 

・ 全額カットなら自立を妨げる

 
 次に、生活保護で保護されるのは『最低限度』なので、多少でも収入があればその分は保護費カット!…というのは『生活保護法』の目的に反するのではないかということだ。

 生活保護法第1条は次のようにのべる。
 

 この法律(生活保護法)は日本国憲法第25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の度合いに応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
 

『その自立を助長』ということになれば、いくつか選択肢はあろうが一般的には就労に対する援助だ。

 資本主義の日本において、就労による収入分が生活保護費から全額カットされるのならば就労意欲をそぎ、逆に自立を妨げることになるのは想像に難くない。
 

1万5200円までは、生活保護費は減額されない

 
 そこで、就労による収入の一定金額までは、生活保護費は減額されないことになっている。
 

・ 基礎控除は1万5200円

 
 まず就労による収入には1万5200円の『基礎控除』があり、これ以下の収入であれば保護費に影響はない。ただしこれを超えた分は保護費がカットされることになる。
 

・ それ以上は4000円ごとに400円の控除

 
 ただしこれについても『1万5200円を超えた分は全額保護費カット!』ということになれば、それはそれで自立を妨げることになりかねない。

 1万5200円を超えると、4000円ごとに控除額が400円加算される。つまりそれを超えた金額は保護費からカットされるので、世帯の収入4000円に対して控除額が400円ずつ、すなわち1割ずつ加算される。

 1万5200円を超えると、収入4000円に対して1割の400円しか手取りの収入が増えないのは何とも就労意欲が萎えそうな比率だが、元々最低生活費を超える収入は全く増えないのが基本であるのを考えれば雲泥の差だ。

 結局、下図のような関係になる。

 

 

 

 Excelで書くと、収入額と、手取り額の関係はつぎのようになる。
 

INT ( MAX ( 給与 ー 15,000 ,0 ) 4000 )*400 + MIN ( 給与 , 15,200 )
 

 下のグラフで、給与収入と手取りの関係を表にすれば、次のようになる。
 

給与収入   保護費のカット   収入増加額

  1万5200円        0円    1万5200円
  2万円        4400円    1万5600円
  2万5000円      9000円    1万6000円
  3万円       1万3600円    1万6400円
  3万5000円    1万7800円    1万7200円
  4万円        2万2400円    1万7600円
  5万円        3万1600円    1万8400円
  7万円        4万9600円    2万0400円
 10万円        7万6400円   2万3600円
 15万円      12万1600円   2万8400円

 

 このように、生活保護受給中についてはその性質上、給与額を少額に抑えないとその金額の多くが控除されることを覚悟しなければならない。実際にはむしろ保護解除を目指した方がいいだろう。
 

・ 2人目以降は控除額が抑えられる

 
 ただしここまでの話は、その世帯で一番収入がある方の場合だ。世帯で1人だけ働く場合は当然その方の収入についてのことになる。

 世帯でナンバー2以下の給与所得者に関しては控除額が抑えられるので、これについては自治体の担当者に照会した方がいい。
 

一定の新規就労は1万2600円の控除

 
 さらに学校を卒業した方や、入院その他やむを得ない事情で3年以上就労しなかったなど一定の条件を満たした方が継続性のある職業についた場合、その収入から
 

   ・ 当初6ヶ月
   ・ 月1万2600円
 

の控除があり『新規就労控除』という。つまりその分は保護費の認定上収入とみなさないということだ。

 一定の条件を満たし、その上で『6ヶ月間』という限定付きではあるが、上の基礎控除と合わせると最低でも2万7800円控除されることになる。
 

20歳未満は1万1600円控除

 
 生活保護世帯の20才未満の方の就労による収入について1万1600円の控除がある。『20歳未満控除』という。ただし単身者についてはこの控除はない。

 以前は成人年齢が20才だったので未だに『未成年控除』という場合もあるようだが。18才・19才でも適用になる。
 

高校生のアルバイトは、使途によりさらに控除も

 
 保護世帯の高校生がアルバイトで収入を得た場合、上の『基礎控除』、20歳未満ならさらに『20歳未満控除』の対象になるのは言うまでもないが、使途によってはさらに控除が拡大される場合がある。
 

 事前に保護福祉事務所から承認があっ場合は、次のような使途の収入は収入認定額から除外される。

   ○ クラブ活動費の一部
   ○ 私立高の授業料の不足分
   ○ 学習塾の費用
   ○ 進学費用の貯蓄分
 

就労収入には届出義務

 
 他の収入についてもそうだが、特に勤労による就労については保健福祉事務所への届出が必須だ。

 事前の届出が必要なものはそれも含めて、届出がなかったり不正確だったりした場合にはペナルティーがあるので、収入の証明となる資料や記録は確実に残しておかなければならない。
 

勤務先への調査も

 
 保護費の正確な執行のため、保健福祉事務所には関係先への調査権限がある。『関係先』には当然勤務先も含まれるので、勤務先に担当者が調査に現れることもある。

 適切に処理していれば何の問題もないが、収入額等について本人の申告と事実の間に齟齬(そご)があれば本人の不利益にもあるので、本人にもそういうことがあり得ることは伝えておいた方がいいだろう。
 

就労による保護脱却で、収入認定の一部が戻る

 
 生活保護は自立を目指すものなので、就労により生活保護を脱却した場合は、申請により、収入認定によりカットされていた保護費の一部が戻ることがある。これを『就労自立給付金』という。

 給付金の金額はどう決まるかというと、就労による各月の収入認定額の10%が原資として積み立てられ(筆者独自の表現です。)、生活保護を廃止した月まで直近6ヶ月間分が給付金額になる。

※ 以前は就労開始月からの月数によって『原資』となる率が決められていたが、現在は一律10%になっている。
 

 給付金には最低・最高限度額があり、次のようになっている。
 

         最低給付金     上限
単身世帯      2万円      10万円
複数世帯      3万円      15万円
 

 一例を挙げると次のようになる。5月から収入認定され、12月1日に生活保護脱却した場合だ。
 

    就労収入  手取り増加額  生保認定収入 給付金の『原資』

 5月  3万円   1万6400円   1万3600円   1360円
 6月  5万円   1万8400円   3万1600円   3160円  ┓
 7月  7万円   2万0400円   4万9600円   4960円  
 8月  9万円   2万2400円   6万7600円   6760円  
 9月   12万円    2万5600円   9万4400円   9440円  
10月  10万円   2万3600円   7万6300円   7630円  
11月   8万円   2万1600円    5万8400円   5840円  ┛
12月  15万円   2万8400円   12万1600円 1万2160円
 

 この場合は、6月~11月まで6ヶ月間の認定収入37万7900円のうちの10%、3万7790円が、就労自立給付金として支給される。
 

・ 廃止決定を受けたらすぐに請求を

 
請求は、正確保護が廃止される直前に行うのが基本なので、就労による保護の廃止決定を受けたらすぐに請求した方がいいだろう。

 ただし支給を受ける権利の時効までは2年あるので、それ以内であれば〝そんなの知らなかったよ!〟という方も請求はできる。

 

2026年02月24日