₁₃₆.歴日数シンクロ型欠勤控除



 前回までの欠勤控除方法は、どれも『(所定)労働日数に応じた』控除又は支給という考え方では一致している。
 これとは別に所定の給与を『1ヶ月の歴日数』で割り、これを日割の基準にするという方法もある。どちらかというと平均賃金等の考え方に近い。

 平均賃金と大きく違うのは、直前の〆日まで3ヶ月間のすべての給与(賞与除く)で算出する平均賃金に対して、この欠勤控除の単価は当月の所定給与で算出するということで、歴日数で割ること自体は同じだ。
 

・ 歴日数1日分が基準の公的給付

 
 給与計算担当者の方ならご承知のように、労災(保険)の休業補償や健康保険の傷病手当金や出産手当金の支払金額、あと雇用保険の基本手当・育児休業給付金等、公的労働・社会保険の支給金もほぼこの方法で単価を算出し、それをもとに1日の支給額を決めていく。

※ 『基本手当』とは、一般被保険者に対する求職者給付。失業等給付の代表

 これらの給付の基になる1日の単価の求め方はそれぞれ次の通りだ。

給付の種類    単価の名称       基本的な計算方法
休業補償     平均賃金    前3ヶ月間の給与 ÷ 89~92日(3ヶ月の歴日数)
育児休業給付金  賃金日額    前6ヶ月間の給与 ÷ 180日
傷病手当金等   標準報酬日額    標準報酬    ÷ 30日

※ 『標準報酬』とは、月々の給与を標準化したもの

 微妙に違いはあるが、大雑把に言って『歴日数1日当たり』の金額を単価とすること自体は同じだ。『〇月〇日から〇月〇日まで労務不能(または失業状態)であった』ことが明らかなこの種の給付とは親和性が高い。

 これらの給付が出るときは待期期間を除いて欠勤で処理することが普通なので、控除額を歴日数で計算することには合理性がある。
 

・ 欠勤控除法による控除額の違い

 
 また、普通の欠勤でも、長期にわたっての旅行とか長期の帰省とか(年休以外)、又は給与計算期間途中の入退社の場合にも納得が得やすい。

 たとえば、土日祝日休みで20日〆の会社に今年の5月1日に入社した場合、基本月給25万円で年間所定労働時間1976時間(基礎賃金1,518円/h)なら(この場合は欠勤ではないので正しくは『不就労による』)『控除額』をそれぞれ計算すると、

① 日額固定(基礎賃金)型

1,518円/h × 8h/日 × 6日 = 72,864円

② 月ごと日割計算型

250,000円 ÷ 18日 × 6日 = 83,333円

③ 歴日数シンクロ型

250,000円 ÷ 30日 ×10日 = 83,333円

となる。②と③が同じくなったのはたまたまだ。

 この方は4月はもともと在籍していない。在籍していない期間のその事業所の休日日程によって給与を減額されるのも腑に落ちないという方もいるかもしれない。そうした考えからは、歴日数だけを根拠とする③が(この場合は)妥当とも言える。

 また、給与の〆日が月途中の会社で入社日が1日の方が多い場合など、入社月による控除割合が休日の関係で大きく変わるのを防ぎたい場合もいいだろう。

 ただし、欠勤控除(このような『不就労控除』も含む。)の方法は統一した方法が求められるので、その時その時で控除方法を変えることはできない。自社で多いパターンや重視したいところによって、控除方法を決めることになる。
 

・ 歴日数シンクロ型のデメリット

 
 歴日数シンクロ型の問題は、山猫ストのように出勤日を挟んで少しずつ欠勤された場合、欠勤日と隣り合った休日の扱いをどうするのか事前に共通理解を得ておく必要がある点だ。つまりこういう場合だ。

①②③④ ⑤⑥⑦⑧⑨⑩ ⑬⑭⑮⑯⑰⑱ ⑲⑳㉑㉒㉓㉔㉕ ㉖㉗㉘㉙㉚㉛
水木金 月火水木金 月火水木金 月火水木金 月火水木金
㊡㊡㊡ ㊡㊡㊡出出㊡㊡ ㊡出出出出出㊡ ㊡㊡㊡㊡㊡㊡ ㊡出出㊡㊡㊡

 所定労働日のうち欠勤した日だけを控除すると不当に高額な給与となるし、休日も含めて出勤しなかった日を控除すると、逆に不当に安い給与となるからだ。

 したがって、出勤しなかった休日については『在籍していなかった』とか『労務不能だった原因が明確に存在していた』という客観的事実をもとにしてその扱いを判断すべきだろう。

 前の、姫川さん(月額基本給30万円のみ)の場合で、歴日数シンクロ型の欠勤控除額を示す。それぞれ欠勤1日のところが日割単価ということになる。

 右端の『30.4375日』の列については下で説明する。
 

1ヶ月の歴日数

欠勤日数    28日     29日     30日     31日   30.4375日
 1日     10,714円    10,344円   10,000円    9,677円    9,856円
 2日     21,428円    20,688円   20,000円    19,354円    19,712円
 3日     32,142円    31,032円   30,000円    29,031円    29,568円
 4日     42,856円    41,376円   40,000円    38,708円    39,424円
 5日     53,570円    51,720円   50,000円    48,385円    49,280円
  :      :      :      :       :      :
 25日   267,850円  258,600円  250,000円  241,925円  246,400円
 26日   278,564円  268,944円  260,000円  251,602円  256,256円
 27日   289,278円  279,288円  270,000円  261,279円  266,112円
 28日   299,992円  289,632円  280,000円  270,956円  275,968円
 29日     ー     299,976円  290,000円  280,633円  285,824円
 30日     ー      ー     300,000円  290,310円  295,680円
 31日     ー      ー      ー     299,987円  300,000円

 さて、右端の列は、月平均の歴日数だ。

 閏年は4年に1度なので、1年間の平均歴日数は365.25日となる。これを12ヶ月で割るとこの日数が出てくる。これを単価として使うこともできる。
 

・ 閏年は400年に97回

 
 ちなみに、閏年が4年に1回というのは今では正確な表現ではない。昔(ユリウス暦)はそうだったのだが、1582年以降は閏年の決め方は3段構えになっていて、

① 西暦を4で割り切れるときは閏年
② ①の例外として100で割り切れる年は平年
③ ②の例外として400で割り切れる年は閏年

というルール(グレゴリオ暦)となっている。

 正確には、閏年は400年に97回となるので、厳密には1年の平均歴日数は365.2425日となる。2000年の閏年は例外中の例外だったということになる。ただ、そのおかげで1901年から2099年までの199年間は常識通り『閏年は4年に1回』が厳密に成り立つ。

 今から2100年の平年のことを心配する必要はないので、月平均日数も最初の『30.4375日』をそのまま使ってよい。

 

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2024年04月16日