91.年次有給休暇を取得できない場合



 年次有給休暇の趣旨は『疲労回復』ではあるが、その利用目的については『労働基準法の関知しないところ』であることは『88.年次有給休暇と時季変更権』で書いた。

 当然『いつ取得するか』についても、社会人としての常識の範囲内で基本的には自由に決められる。ただ『年次有給休暇を取得できない場合』というのも存在する。といっても理屈で考えれば当たり前のものが多い。下記のような場合だ。

① 休日
② すでに、他の休暇が確定している場合
③ 産後休業期間
④ 一斉休暇闘争の場合
 

① 休日

 

 まずは『休日』だ。年次有給休暇に限らず『休暇』とは、就労の義務がある日にこれを免除する日をいう。『休日』は、もともと就労の義務がないので、ないものは免除しようがない。従って休暇を取ることは法律的にも物理的にも不可能。ということになる。これは法定休日か所定休日かを問わない。
 

② すでに他の休暇が確定している場合

 
 『すでに他の休暇が確定している場合』とは、たとえば、お盆や年末年始の休業を『全員一斉の休暇』として消化している場合などだ。これも、すでに『労働義務が免除されている』ので、同じ日について重ねて免除することはできない。

 ここで、確定している『他の休暇』については、有給・無給を問わないので、会社から給与が出ない『育児休業』等をすでに申請している場合なども、何らかの理由で後から年次有給休暇に切り替えるということはできない。
 

・ 先手必勝?

 
 要するに、他の休暇がすでに決まっている場合は、後から『年休取得』はムリということになる。
 労災や私傷病での休職も、これに含まれる。
 もちろんこれらについては、本人が希望し、会社と本人との話し合いで、会社が休暇の種類を変更することに同意した場合は、問題はない。

 実務的には、労災保険の休業補償給付が出る前の3日間(会社が平均賃金の6割を支払うことになっている)や、健康保険から傷病手当金が出る前の3日間を、本人の希望があり、会社が認めれば年休で処理することはよく行われている。

 逆に、計画年休等で、すでに年次有給休暇の取得が決まっている日が、後から申請した育児休業等とカブってしまったとしても、基本的にはその日は『年次有給休暇』として処理し、給与の支給義務が発生することになる。
 

③ 産後休業期間

 
 『産後』休業期間だけ特筆しているのは大変奇異な感じがするが、これには理由がある。
 産前産後休業期間は労働義務が免除されるので、先に産前休業を申請した場合は、②と同じ扱いになる。しかし『産後』休業については、次のようにこれとは労基法上の扱いが異なる。
 

・産前休業

 使用者は、6週間(多胎妊娠にあっては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。(労基法65条1項)
 

・産後休業

 使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは差し支えない。(労基法65条2項)
 

 つまり、産前休業(出産日を含む。)については本人の『請求』を要件にしているのに対して、産後休業(特に産後6週間)については、請求があろうがなかろうが絶対禁止の規定となっている。

 産前休業に関しては、年次有給休暇の未使用分がたくさん余っているとか時効が近いとかの理由で、あえて何日間か産前休業を請求せず、年次有給休暇で処理することは可能だ。
 しかし産後休業の場合は就業が絶対に禁止されているので、この期間内に労働の義務を免除する年次有給休暇を入れるのは不可能ということになる。

 ただ、上の労基法65条2項但し書きにあるように、産後6週間超・8週間以内について、その女性が就労を請求して医師の許可をもらい、産後6週間経過後の『産後休業』を明確に拒否した場合に限っては、年次有給休暇を取得する余地はある。

 法律的にはこのような扱いになるが、産後6週間を除いた普通『産休』『育休』となる期間中に年次有給休暇をあえて入れる場合は、出産手当金・育児休業給付金の支給額や支給要件・社会保険料免除の要件・源泉所得税、さらに時期によっては標準報酬の決定等とも複雑に絡んでくるので、できれば社労士等の専門家も交えて本人とよく話し合った方がいいだろう。

 良かれと思って会社の負担も度外視して年次有給休暇で処理した結果、本人に不利益が生じて恨まれたのでは何にもならない。
 

④ 一斉休暇闘争

 
 『一斉休暇闘争』と言っても「何それ?」という方が多いと思うが、労働組合が要求実現の手段として『業務の正常な運営の阻害』を目的として職場を一斉に離脱する場合(一斉休暇闘争)、これは実質的にストライキなので、年次有給休暇権行使の対象外だ。

 つまり、『有給』にもならないし、使用者の『時季変更権』の対象にもならない。大体、これを『有給』で扱ったら労働組合運動に対する経費援助ということで『不当労働行為』ともなりかねない。
 ただ、従業員の何人かが年次有給休暇をとって、他の職場のストライキの応援に行くというのは可能だ。

 話は変わるが、地方都市などでパートの方が多い職場など、地域や学校の行事があるときに年次有給休暇の申請が集中することがある。これは一斉休暇『闘争』をしているわけではないので、普通に年休権の行使だ。

 そうなると、申請が集中しすぎて『事業の正常な運営を妨げる』場合には、『時季変更』の対象になり得る。
 具体的には、不公平にならないように留意しながら、一部他の時季に移動してもらうことも認められる。

 

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※ 訂正

91.年次有給休暇を取得できない日
4行目 というものも ➡ というのも
・産後休業
11行目 産後6週間超・産後8週間以内 ➡ 産後6週間超・8週間以内

 

2023年10月17日