₁₀₂.年次有給休暇の5日取得義務



 本来の年次有給休暇の趣旨にはそぐわないが、年休取得率の低迷に業を煮やした『国』が施行したのが『年5日間取得義務』だ。
 前のおさらいになるが、これは、半日年休はいいが、時間単位年休として取得した分は入れられない

 また、義務化の対象は年10日以上付与された方なので、繰り越した分を含めて10日になった方は入らない。
 通常勤務の方は入社6ヶ月経過日の、最初の付与時から対象になるが、週30時間未満のパート等の方は、週4日の方で3年半・週3日の方で5年半で対象に入ってくる。週1日・2日の方は義務化の対象になることはない。
 

取得義務は結果責任?

 
 労働基準法は『○○してはならない』と、使用者に対してクギを刺す条項が多いが、年休取得義務に関しては、次のような体系になっている。省略したものなので、原文が読みたい方はそちらに当たってほしい。
 

・ 労基法39条7項

 使用者は、年次有給休暇の付与日数が10日以上の労働者の付与日数のうち、5日については、基準日から1年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。

・   同  8項

 労働者の希望や計画年休等により与えた有給休暇の日数(当該日数が5日を超える場合には、5日とする)分については、時季を定めることによって与えることを要しない。
 

 7項からすると、ほぼ計画年休に近い形で1年ごとに時季を指定して5日与えなければならないようだが、8項によると、労働者の希望等により取得した分は差し引ける規定になっている。

 しかし、希望による取得が年5日に達するかどうか分かるのは、次の基準日の数日前ということになるので、そこまで待ってはいられない。
 

・ 『踏ん切りをつける』日を規定する

 
 この1年間のどこかで踏ん切りをつけて時季指定をしなければならない。踏ん切りをつけるのはいつなのかは規定されていないので(規定されていたらいたで、それも大変だが)、ここは使用者自ら判断しなければならない。

 最初の6ヶ月で4日取ったので安心して放置していたら、後の半年1度も取らずに法違反になった!ということもあり得るし、1度も取らないので早く取らせようとしたら「ちゃんと取るから大丈夫ですよ」と煙たがられる可能性もある。
 「キミは去年こうだったから…」とか人で判断するような対応も、労働者にとっては癇(かん)に障る場合もありそうだ。

 みんながみんな普通に年休を取ってくれれば何もしなくても規制はクリアできるので、事実上、使用者に結果責任を課すような規定とも言えるが、この取得義務導入と同時に『年次有給休暇管理簿』の作成と3年間の保管も義務化されたので、『年5日くらい、みんな必ず取得しているよ』という優良事業所でも、何も対処しないという選択肢はない。

 上記39条7項で『時季を定めて取得させる』ことは規定されているので、あえて機械的に

『基準日以降6ヶ月で取得が4日以下の者には、一律に時季を定めて与える』

と規定してしまうなどの方策が現実的かもしれない。
 

年休5日取得義務の例外

 
 義務化で問題になるのが、期間雇用・季節雇用・途中退職の方の扱いだ。
 

・ 6ヶ月以内は対象外

 
 まずハッキリしているのは、6ヶ月以内で退職する方は対象外となる。年休自体が発生していないので当たり前じゃないかと言わないでほしい。6ヶ月以内というと6ヶ月キッカリの場合も含まれる。

 キッカリの方は『6ヶ月継続勤務』しているのになぜ対象にならないかというと、6か月経過日に付与することになっているからだ。『経過日』とは6ヶ月が経過した(つまり次の)日となるので(この日を『基準日』という)、基準日にその方が自社に存在していなければ付与しようがないし、取得しようもないということになる。6ヶ月継続勤務に達した日に付与されるわけではない。
 

・ いきなり退職も対象外

 
 あと、ハッキリしている例として、自己都合でいきなり退職した方も対象でない。これも当然だろう。いきなり「今日で辞めます。もう来ません。」と言って出て行った方まで取得義務の対象になり、監督署に行かれて会社が指導の対象になるのでは、ただの嫌がらせとしか思えない。

 ただし、次の基準日まであと数日なのに1日も取得していなかったとか特殊な事情がある場合には、元々年休の取得義務の運用を怠っていたのが原因なのであって、「これから取らせる予定でした。」という言い訳はできない。
 

・ 前倒し付与・取得は可

 
 また、期間雇用や季節雇用で、雇用期間が例えば4月1日から11月30日まで(8ヶ月)と決まっている場合には、法律上は10月1日に10日の年休権と、同時に5日の取得義務が発生する。

 が、そこから11月30日まで2ヶ月間に無理やり5日取らせるのはきついという場合には、前倒ししてまだ年休権の発生していないお盆の時期にでも先に付与して取らせておく…とかいうのは可能である。
 ただ、この場合6ヶ月到達以前に自己都合で退職されても、「あげた年休返せ!」というわけにはいかない。

 さらに、普通解雇など会社都合の場合には、年休取得日数が5日に達していなければ、最低限これを満たしておくことは当然だろう。

 これ以外の、普通に2週間以上前に申出があって自己都合退職する場合は、1年間に対する基準日から退職日までの期間で按分した日数を取得させればよいという考えもあるようだが、期間雇用との比較で考えても、基準日以後『5日取得』は必須だ。
 もちろん、基準日以降退職日までが4日以内の場合には、その日数を取得させればOKなのは言うまでもない。

 取得義務とは別の話になるが、希望があればすべて使わせなければならないのは当然だ。
 

・ 産休・育休・労災.傷病休職等

 
 産休・育休・労災休職や、傷病休職(年休権がある場合)で前回の基準日から次の基準日前日まですっと休んでいた方も、年次有給休暇を取得しようがないので取得義務はない
 逆に、取得しようがある場合、つまり、産休➡育休が1年以上の場合で育休明けが基準日5労働日前以降とかいう状況なら、基準日前は全て年休としなければならないことになる。

 

次 ー ₁₀₃.年次有給休暇管理簿とは ー

 

※ 訂正
・ 産休・育休・労災・傷病休職等
4行目 基準日6日前以降 ➡ 基準日の5労働日前以降 '23.12.1
・ 前倒し付与・取得は可
12行目 案分した ➡ 按分した  '23.12.12
(『案分』でも誤字ではないようですが、私の意図は『按分』の方なので、訂正します。)

 

2023年11月28日