₁₀₃.年次有給休暇管理簿とは



 付与日数10日以上の方を対象に、年次有給休暇を最低年5日取得を義務付ける2019年度の改定と同時に義務化されたのが、『年次有給休暇管理簿』の作成と3年間保存。ちなみに作成が義務となるのも、取得義務がある方が対象だ。
 

・ 年休管理簿の必要記載事項

 
 管理簿に記載すべき事項は『時季・日数・基準日』となっている。
 ここで『基準日』とは、入社後半年後・1年半後・2年半後…の、年休付与の基準となる日で、普通付与日と一致する。
 『時季』は、年休を取得した日で、『日数』は、基準日から起算して年休を取得した日数の総計だ。

 たしかに厚労省が発行している『年5日の年次有給休暇の確実な取得 分かりやすい解説』に載っている『年次有給休暇管理簿』には、

① 基準日
② (基準日以降の)取得日数
③ 年次有給休暇を取得した日付

しか載っていない。つまり、基準日から現在までに、いついつ何日取得したかが明らかになっていればよいといえる。

 また、半日年休があるのであれば、義務的取得日数に入ってくるので必ず入れなければならないが、時間単位年休は義務的取得とは関係ないので別扱いになる。

 さらに、基準日から1年間の間に次の基準日が存在する場合(ダブルトラックという。)には、最初の基準日から次の基準日の1年後までの取得日数が記載されていなければならない。
 

せっかく作るなら使える管理簿を

 
 法定の『年次有給休暇管理簿』との関係で言えばこういうことになる。付与日数が1ケタのパートの方などは、管理簿の作成自体が任意だ。
 ただ、年休の管理というのは、普通付与から時効まで2年単位となり、半日年休や時間単位年休もあるとなると相当複雑になることは、事務担当者ならだれでも知っている。

 こうした年休管理が元となる『年次有給休暇管理簿』を、単に法で義務付けられているからやむを得ず作る…というのももったいない話だ。

 どのみち年休の管理はしなければならないのだから、どうせ作るなら『使える』管理簿にした方が良い。つまり、次のような情報が一目瞭然となるような『管理簿』だ。

④ いつの基準日(付与日)の年休残日数が、現在何日何時間になっているか
⑤ 基準日からの時間単位年休の累計が、現在何時間になっているか

ここで、
 ④は、付与日から2年経過で時効消滅する年休の管理に必ず必要になる。
 ⑤は、時間単位年休の取得が法定の5日分に収まっているか、何時間分余裕があるのかを知るためにも必要だ。
 

Excelでの年休管理簿の例

 
 もちろん、紙で作ってもいいのだが、自動化できるところは自動化した方が効率がいいのでExcelで作るとすると、例として次のようになる。ただし、これは横幅を広げないためにダブルトラック1日の時間数変更には対応していないので、その場合には修正が必要だ。

Excelによる年次有給休暇k管理簿


 この程度のExcelネタを出し惜しみする気もないので大事な部分の数式を紹介すると、

たとえば、残日数のJ列は(J16の例)

=$C16+$J15-$F16-($G16>$K15)-($C16<>"")*$L15

等となっている。言葉で書くと、

付与日数前回残日数取得日数繰下がり日数時効消滅日数

となる。同様に残日数(残時間?)のK列は(K16

=$K15-$G16+($G16>$k15)*$K$2-($C16<>"")*$M15

で、同様に

前回残時間取得時数繰下がり時数時効消滅時数

となっている。()内の条件式は、Excelのお約束として

条件式が真であれば『1』・偽であれば『0』

を返すことになっていることを利用している。『if』を使ってゴチャゴチャするとメンテナンスが大変なので、可能なときは使うことが多い。
 

・ Excel表の留意点

 
 あと、実際に職場で使用するときには、B・C・F・G列以外は入力不可(セルの保護)に設定しておいて、管理者以外は触れないようにしておくことも地味に重要だ。

 また、この表では仕組み上、C列の『付与日数』は、出勤率が8割未満で付与しないときも、基準日には必ず『0』を入力しなければならない。

 『残日数』について言うと、付与日数から取得日数・時効消滅日数を引いたものになるのが基本だが、時間単位年休があるときは少々複雑になる。
 と言っても『残時間数』より『取得時間数』が大きいときに、『1日』の塊(かたまり)を所定労働時間分に崩すだけなので、そこだけ気を付けておけばよい。老婆心ながら『0.5日』の半日年休は、目ざわりでも4時間とかに崩してはいけない

 どうしても、前年度分を使い切って当年度分の消化に移るタイミングでは、1日・半日年休のみの消化が続くと時間単位年休だけ前年度分がしばらく余ることがあるが、その後の時間単位年休の消化分が余りの分を上回った段階で消えることになるので気にしないことだ。

 ただ、その後全く時間単位年休の使用がなかったり、そもそも使用すると『年5日分』の規制にかかるような場合は、付与2年後に時効消滅することになるが、これはやむを得ない。

 もう1つ、この表では付与・取得の『年』が省略してあるが、これは省略しないのが正しい。
 

・ 一番重要なのが、基準日からの取得累計

 
 書くのが遅くなったが一番重要なのが、(基準日からの)『取得累計』の列だ。
 ここで日数が次の基準日前に5日未満なら取得義務違反となるし、時間数が同様に5日分(所定が8時間なら40時間)を超えても法違反だ。この例では、2年目の基準日直前で8.5日と28時間となっている。

 Excel表のC列とF列の間の非表示は何だ?と目ざとい方は気になると思うが、取得累計の計算上必要となるフラグ(目印)が収まっているだけだ。
 人によっては列数を増やすのがイヤでやたらと長い条件式をつくるのが趣味の人もいるが、これは担当者がいなくなると誰も解読できなくなるので職場ではやらない方がいい。

 最後に、『年次有給休暇管理簿』は公的文書なので、自社で作るにしても出来合いのものを入手するにしても、いざ操作を間違ったり、めったにない状況でバグが発生(露呈?)したりして元に戻らなくなった…ということになると大変なので、pcの場合は面倒でも入力の都度pdf等を保存しておくなど、不測の事態への備えは欠かせない。

 

次 ー ₁₀₄.年次有給休暇の一斉付与(斉一的付与) ー

 

※ 訂正
 Excelでの年休管理簿の例 2行目
  ダブルトラックには ➡ ダブルトラックや1日の時間数変更には  '23.12.5

 

 

 

2023年12月01日