₁₀₅.年休一斉付与の場合の取得義務



 年次有給休暇は、法定通り付与すると、付与日から付与日まで必ず1年間キッカリになる(出勤率8割未満の場合は除く。)。従って、通常の労働者でも比例付与の方でも、付与日数が10日に達した時点から1年間に5日間取得すれば、法定の取得義務を果たしたことになる。

 しかし、統一基準日を設定した場合は、最初のうち(おおむね2年以内)は、たまたまキッカリになったときを除いて付与日(即ち基準日)の間隔が1年未満の部分が出てくる。
 

・ もれなく付いてくる『取得義務』

 
 ここで、年休の買取とか他の知識の類推から、《取得義務についても、法定の『付与日数』部分が10日以上になったとき、法定の基準日間の1年間に果たせればいい》という誤解もあるようだが、これはそれとは違う。

 法定以上の『統一基準日』による年休付与を任意で決行した以上、その付与日数が10日以上になれば、『取得義務』も、もれなく付いてくるものと考えなければならない。

 たとえば入社時に10日付与するのであれば、入社後1年間に5日取得させなければならない。『法定が6ヶ月経過で10日だから、そこから1年間で5日取得させればよい』というのは誤りだ。

 また、入社時と半年後に5日ずつ分割で付与するのなら、合計10日に達する半年後から1年間に5日ということになる。もっともこの場合は、入社半年間に取得した日数は取得義務の『5日』から引いてよい。

 そして、その次を統一基準日とすれば、入社1~2年間は基準日の間隔が1年未満になる場合が出てくる。
 では、基準日の間隔が1年未満の場合、取得義務はどう考えればよいかというと、ここで道は2つに分かれる。

 具体的に書かないと分かりづらいので、ここでは(前回の②)『入社6ヶ月経過以前に4月1日が来た場合はその日・それ以外は6ヶ月経過時に10日、その後4月1日に11日・12日・14日…付与』の会社に、'23年7月1日入社した場合で考える。

 この場合は、入社6ヶ月経過の'24年1月1日に10日・'24年4月1日に11日付与されることになる。次の基準日は'25年4月1日であり、最初の付与日から15ヶ月後となる。
 

① ダブルトラック

 
 この場合は、基本はダブルトラックになる。つまり、

    ⑴ '24年1月1日から'24年12月31日までに5日取得
    ⑵ '24年4月1日から'25年3月31日までに5日取得

の、いずれもクリアしなければならない。
 ここで、⑴と⑵は重複することはできないので、'24年1月1日から'25年3月31日までに合計10日取得させなければならない。
 つまり、『'24年4月1日から'24年12月31日までに5日取得させれば⑴も⑵もクリア』という、都合のいい考え方は通用しない。
 

② 比例按分

 
 こういう場合について、厚労省は、⑴の始期(最初の基準日)から⑵の終期(次の基準日の1年後の前日)までの期間の、1年に対する比例按分で算出した日数

月数 ÷ 12(月) × 5日

を下回らない日数を付与すれば可とした。

 ⑴の始期から⑵の終期までは15ヶ月なので、

15ヶ月 ÷ 12ヶ月 × 5日 = 6.25日

となる。つまり、'24年1月1日から'25年3月31日までの間に、7日年次有給休暇を取得させれば、基準をクリアしたことになる。
 また、半日年休が認められている職場で本人の希望があれば6.5日でもクリアだ。
 図に書くと、次のようになる。
 

           ① ダブルトラックの場合(基本)

               ┏━━━━━この間に5日取得━━━━━━━┓
 入社      ┏━━━━━この間に5日取得━━━━━━┓
'23/7/1  …  '24/1/1   4/1   7/1   10/1   '25/1/1   4/1
         ┗━━━━━━━この間に7日(6.5日)取得━━━━━━┛

            ② 比例按分の場合

 

比例按分すべき月数の端数

 
 上記②の比例按分について、最初の基準日から次の基準日の1年後の日の前日まで(比例按分すべき期間)について、月数の端数が生じる場合の扱いも厚労省は定めている。かなり細かい話になるので読み飛ばしてもらっても構わないが、こういった『期間の端数』の一般的な扱い方としても使えるので、一応載せておく。
 

・ 月数の端数計算


① 基準日から翌月の応当日の前日までを1か月と考え、月数及び端数となる日数を算出します。ただし、基準日の翌日に応当日がない場合は、翌月の末日をもって1か月とします
※ ここで『応当日』というのは、事務担当者はご承知と思うが、『各月の同一日(11月31日とか、その日が存在しない場合はその月の月末とする)』のこと

② 当該端数となる日数を、最終月の歴日数で除し、上記①で算出した月数を加えます。

③ 上記②で算出した月数を12で除した数に5を乗じた日数について時季指定をします。なお、当該日数に1日未満の端数が生じている場合は、これを1日に切上げます。
 

・端数計算の実例

 
 たとえば、比例按分期間が'23年12月8日から'25年9月20日までとすると、

① '23年12月8日 から '25年9月7日 まで 21ヶ月 と、
  '25年9月8日 から '25年9月20日 まで 13日 の端数 に分ける。

② 端数の13日は、9月8日から10月7日まで1か月の30分の13なので、
    13日 ÷ 30日/月 = 0.433…月  とし、
  期間合計月数を 21.433…ヶ月とする。

③ 21.433…ヶ月 ÷ 12ヶ月 × 5日 = 8.930…日
  を切上げて、義務的取得日数を 9日 とする。
 

・ 第1基準日の違いによる比例按分日数

 
 例として、第2基準日を4月1日に統一した場合、第1基準日に日付による取得義務が生じる比例按分日数は、次のようになる。

   第1基準日          義務的取得日数
            半日年休可で希望有り   左記以外
4月2日 ~ 5月7日      10日        10日
5月8日 ~ 6月13日     9.5日        10日
6月14日 ~ 7月19日      9日        9日
7月20日 ~ 8月25日     8.5日        9日
8月26日 ~ 9月30日      8日        8日
10月1日 ~ 11月7日     7.5日        8日
11月8日 ~ 12月13日     7日         7日
12月14日 ~ 1月19日    6.5日         7日
1月20日 ~ 2月25日     6日         6日
2月26日 ~ 3月31日    5.5日         6日

 

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※ 訂正
『案分』を全て『按分』に直します。  '23.12.12
(『案分』でも誤りではないようですが、私の意図は『按分』の方なので。)
・もれなく付いてくる『取得義務』
9行目  5日ずつ付与 ➡ 5日ずつ分割で付与  '23.12.19

2023年12月08日