年次有給休暇は、法定通り付与すると、付与日から付与日まで必ず1年間キッカリになる(出勤率8割未満の場合は除く。)。従って、通常の労働者でも比例付与の方でも、付与日数が10日に達した時点から1年間に5日間取得すれば、法定の取得義務を果たしたことになる。
しかし、統一基準日を設定した場合は、最初のうち(おおむね2年以内)は、たまたまキッカリになったときを除いて付与日(即ち基準日)の間隔が1年未満の部分が出てくる。
・ もれなく付いてくる『取得義務』
ここで、年休の買取とか他の知識の類推から、《取得義務についても、法定の『付与日数』部分が10日以上になったとき、法定の基準日間の1年間に果たせればいい》という誤解もあるようだが、これはそれとは違う。
法定以上の『統一基準日』による年休付与を任意で決行した以上、その付与日数が10日以上になれば、『取得義務』も、もれなく付いてくるものと考えなければならない。
たとえば入社時に10日付与するのであれば、入社後1年間に5日取得させなければならない。『法定が6ヶ月経過で10日だから、そこから1年間で5日取得させればよい』というのは誤りだ。
また、入社時と半年後に5日ずつ分割で付与するのなら、合計10日に達する半年後から1年間に5日ということになる。もっともこの場合は、入社半年間に取得した日数は取得義務の『5日』から引いてよい。
そして、その次を統一基準日とすれば、入社1~2年間は基準日の間隔が1年未満になる場合が出てくる。
では、基準日の間隔が1年未満の場合、取得義務はどう考えればよいかというと、ここで道は2つに分かれる。
最初は6ヶ月経過時・2回目以降4月1日の場合
具体的に書かないと分かりづらいので、ここでは(前回の④)『入社6ヶ月経過時に10日、次の4月1日に11日付与』の会社で考える。
図にすると次のような規定だ。
入社 6ヶ月後 次の4月1日 次の次の4月1日
┗━━━━━━┻━……………━┻━━━━━━━━━━━━━┻━━━……
10日付与 11日付与 12日付与
例) '25.7.1 '26.1.1 '26.4.1 '27.4.1
例のように'25年7月1日に入社した方なら、入社6ヶ月経過の'26年1月1日に10日付与・'26年4月1日に11日付与されることになる。次の付与日は'27年4月1日であり、最初の付与日から15ヶ月後となる。
① ダブルトラック
この場合は、基本はダブルトラックになる。つまり、
⑴ '26年1月1日から'26年12月31日までに5日取得
⑵ '26年4月1日から'27年3月31日までに5日取得
の、いずれもクリアしなければならない。
ここで、⑴と⑵は重複することはできないので、'26年1月1日から'27年3月31日までに合計10日取得させなければならない。
つまり、『'26年4月1日から'26年12月31日までに5日取得させれば⑴も⑵もクリア』という、都合のいい考え方は通用しない。
② 比例按分
こういう場合について、厚労省は、⑴の始期(最初の基準日)から⑵の終期(次の基準日の1年後の前日)までの期間の、1年に対する比例按分で算出した日数
月数 ÷ 12(月) × 5日
を下回らない日数を付与すれば可とした。
⑴の始期から⑵の終期までは15ヶ月なので、
15ヶ月 ÷ 12ヶ月 × 5日 = 6.25日
となる。つまり、'26年1月1日から'27年3月31日までの間に、7日年次有給休暇を取得させれば、基準をクリアしたことになる。
また、半日年休が認められている職場で本人の希望があれば6.5日でもクリアだ。
これも図に書くと、次のようになる。つまり第1基準日と、第3基準日の前日(第2基準日の1年後)の前日までが『比例按分』で義務的取得日数を算出してよい期間だ。
① ダブルトラックの場合(基本)
┏━━━━━この間に5日取得━━━━━━━┓
入社 ┏━━━━━この間に5日取得━━━━━━┓
第1基準日 第2基準日 第3基準日
'25/7/1 … '26/1/1 4/1 7/1 10/1 '27/1/1 4/1
┗━━━━━━━この間に7日(6.5日)取得━━━━━━┛
② 比例按分の場合
比例按分すべき月数の端数
上記②の比例按分について、最初の基準日から次の基準日の1年後の日の前日まで(比例按分すべき期間)について、月数の端数が生じる場合の扱いも厚労省は定めている。
かなり細かい話になるので読み飛ばしてもらっても構わないが、こういった『期間の端数』の一般的な扱い方としても使えるので、一応載せておく。
・ 月数の端数計算
① 基準日から翌月の応当日の前日までを1か月と考え、月数及び端数となる日数を算出します。ただし、基準日の翌日に応当日がない場合は、翌月の末日をもって1か月とします
※ ここで『応当日』というのは、事務担当者はご承知と思うが、『各月の同一日(11月31日とか、その日が存在しない場合はその月の月末とする)』のこと
② 当該端数となる日数を、最終月の歴日数で除し、上記①で算出した月数を加えます。
③ 上記②で算出した月数を12で除した数に5を乗じた日数について時季指定をします。なお、当該日数に1日未満の端数が生じている場合は、これを1日に切上げます。
・端数計算の実例
たとえば、比例按分期間が'25年12月8日から'27年9月20日までとすると、
① '25年12月8日 から '27年9月7日 まで 21ヶ月 と、
'27年9月8日 から '27年9月20日 まで 13日 の端数 に分ける。
② 端数の13日は、9月8日から10月7日まで1か月の30分の13なので、
13日 ÷ 30日/月 = 0.433…月 とし、
期間合計月数を 21.433…ヶ月とする。
③ 21.433…ヶ月 ÷ 12ヶ月 × 5日 = 8.930…日
を切上げて、義務的取得日数を 9日 とする。
・ 第1基準日の違いによる比例按分日数
例として、第2基準日を4月1日に統一した場合、第1基準日(入社6ヶ月後)の日付と、義務的取得の比例按分日数は、次のようになる。
第1基準日 第3基準日の前日 義務的取得日数
(按分期間の初日) (按分期間の終日) 半日年休可で希望有り 左記以外
4月 2日 ~ 5月 7日 翌々年3月31日 10日 10日
5月 8日 ~ 6月13日 ” 9.5日 10日
6月 14日 ~ 7月19日 ” 9日 9日
7月20日 ~ 8月25日 ” 8.5日 9日
8月26日 ~ 9月30日 ” 8日 8日
10月 1日 ~ 11月 7日 ” 7.5日 8日
11月 8日 ~ 12月13日 ” 7日 7日
12月14日 ~ 12月31日 ” 6.5日 7日
1月 1日 ~ 1月19日 翌年3月31日 6.5日 7日
1月20日 ~ 2月25日 ” 6日 6日
2月26日 ~ 3月31日 ” 5.5日 6日
次 ー ₁₀₆.年次有給休暇の買取りは? ー
※ 訂正
『案分』を全て『按分』に直します。 '23.12.12
(『案分』でも誤りではないようですが、私の意図は『按分』の方なので。)
・もれなく付いてくる『取得義務』
9行目 5日ずつ付与 ➡ 5日ずつ分割で付与 '23.12.19
※ 日付等を全面改訂しました。 '25.04.05