₁₀₉.取得義務とは違う『計画年休』



 基本的に年次有給休暇は、従業員が自主的に時季指定して取得するものだが、これを会社全体で計画的に取得して行くのが『計画年休』だ。

 これは義務的取得のずっと前から法定されているもので、実務的には年間カレンダーに各人の年休取得予定日が入れてあるものが多いが、事業所によっては年末年始やお盆・ゴールデンウィークなどに合わせて、一斉に取得するようになっているものもある。

 会社にとっての利点は、何といっても何月の何日に誰がいないかハッキリ事前に分かるので、事業計画が立てやすいことが大きい。
 また、従業員にとっても予定が立てやすく、「気兼ねなく休める」という感想はよく聞く。

 難点としては、自由に取得できる日数がその分削られることになるので、事後に発生した予定への対応が難しいという部分はある。
 

労使協定が前提

 
 計画年休を取り入れるためには、労使協定の締結が前提だ。これは、上で触れたように、年休の『時季指定権』を程度の差こそあれ制限することになるからだ。

 この労使協定に必要な要素は、年休を与える『時季に関する定め』しかないので、これさえ定めれば、計画年休の前提条件はクリアだ。
 あとは、労使で協議して各人の、あるいは事業所一斉の年次有給休暇の日程を決定していくことになる。

 この労使協定については、監督署への届出は要しない。
 

対象は5日を超える部分

 
 計画年休についての労基法の規定は、

『使用者は、労使協定により、第39条第1項から第3項までの規定による有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、これらの規定による有給休暇の日数のうち5日を超える部分については、第39条第5項(労働者の時季指定権と使用者の時季変更権)の規定にかかわらず、その定めにより有給休暇を与えることができる』(労基法39条6項)

となっている。
 39条第1~3項というのはすべて年次有給休暇の付与に関する規定なので、その規定による日数のうち5日を超える部分ということは、『付与された日数』のうち5日を超える部分ということになる。
 いつ付与されたものかは書かれていないので、前年から持ち越した部分も対象となる。

 例えば計画年休時、年休がすでに7日しかない方でも、それがすべて付与日数のうち『5日を超える部分』ということもあるので、その場合は7日すべてが計画年休の対象になる。
 一斉付与など特別な場合を除いて年休付与日は各自バラバラなので、労使協定締結時にすでにある程度年休を使用済みということはよくあるのだ。

 計画年休は、労使がそれぞれの事情を勘案して決めるものなので、付与日数のうち『5日を超える部分』なら、いかようにも計画できることになるが、余り余裕のない計画では事後に様々な問題が発生し得るので、日数的にはムリのない範囲で計画するのがいいだろう。
 

パート・アルバイトも対象

 
 また、パート等で『比例付与』の方でも、前年の持越し分を含めた残日数が5日(時間単位年休の『残時間』は含めない。)を超える方や、週4日のパート勤務者が入社半年後に7日付与された場合でも、計画年休の対象者となり得る。

 ここで、比例付与の方を含めて計画年休の対象になり得るかを考えると、次のようになる(週の所定労働日数が変わらない場合)。
 計画年休の対象となることがある方はオレンジ・必ず対象となる方は字とした。

     半年   1年半   2年半   3年半   4年半   5年半   6年半~
週1日  1日    2日    2日    2日    3日    3日    3日
週2日  3日    4日    4日    5日    6日    6日    7日
週3日  5日    6日    6日    8日    9日    10日   11日
週4日  7日    8日    9日   10日   12日   13日   15日
通常  10日   11日   12日   14日   16日   18日   20日

 つまり、週1日の方で5年半以上・週2日で1年半以上勤めた方は、前年の取得状況によって、週2日で4年半・週3日で1年半以上勤めた方・及び週4日以上の方は最初の付与から必ず対象になる。
 

『時季指定権』も『時季変更権』も消滅

 
 計画年休は、その計画が成立した時点で、労働者の時季指定権も使用者の時季変更権も同時に消滅する。
 だから、従業員が『やっぱり忙しいから明日の年休やめる』とか、会社が『急な受注で忙しいから今度の計画年休ずらしてくれ!』とかの要請はできない。

 ただ、ここが強調されて誤解されることもあるが、一方の要請による変更はできないというだけで、双方の合意が成り立てば、誰に迷惑をかけるわけでもないので計画変更は可能である。
 

一斉年休で残りが少ない方の対応は?

 
 計画年休の場合には、お盆や年末年始などは事業所自体を閉鎖(ロックアウトではありません)し、従業員一斉に年休取得という場合もある。例えばその期間を3日間としよう。

 この場合、付与時の年休が繰越し分を含めて8日未満の方には、その3日間の計画年休を押し付けるわけにはいかない。たとえば年休が7日しかない方に3日間の計画年休を適用すると残りが4日になり、『5日を超える部分については』という法の規制に抵触するからだ。

 ただ『計画年休』には入れられないが、この方が任意にその日に年休を取ってくれることになれば、一斉年休は可能だ。
 

・ 年休を取れない方には休業手当

 
 もし、付与日数が少なくて3日間の年休が取れない方がいれば『一斉年休』にはならないことになるが、その方1人だけ出勤させても仕事にならない場合が多いだろうから普通は休ませるしかない。

 この場合は休日(労働義務がない休み)ではないので、その方にとっては会社都合による休業ということになる。従って、休業手当の支給が必要だ。

 

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※ 訂正
労使協定が前提 3行目
時期に関する ➡ 時季に関する
サブタイトル
一斉年休年で ➡ 一斉年休で      '24.01.05

2023年12月26日