₁₁₀.給与ソフト使用不能!給与計算は?



 '23年、事務所の十大事件の筆頭といえば、5月某日、給与ソフトも入れてある直球ど真ん中の業務用pcが壊れたことだ。年が改まり、ようやく『去年の話』になったので触れておく。

 ちなみに、たまたまこの翌月、ランサムウェア攻撃に起因すると思われる大規模なシステム障害により、某社労士業務支援システムが使用不能になる事件が起きて全国に大きく報道されたが、これとは全く関係はない。

 このpcには顧問先の個人情報も入っているのでネットにつながず、スタンドアロンで運用していた。

 もちろん、超重要なこのpcについてはバックアップはその都度とってあり、過去データの心配はないのだが、代わりのシステムが稼働するまでの間、この給与ソフトなしの状態で数十人規模の給与計算をすることになった(結果的には3社分やった時点でシステムが復旧した。)。

 『今時そろばんや電卓で給与計算をしているところは少ないと思うが…』と前にエラそうに書いたことがあったが、そのバチが当たったのかほぼ同様の状態になってしまった。

 別のpcのExcelで各人ごとの基礎賃金から時間外・深夜・休日割増賃金の計算テーブルを作り、電卓でも結果を確認し、一応前月分の給与データを印刷したものから入力して計算式にも誤りがないことを確認する。こうして総支給額を確定する。

 次に各種保険料や税金等の控除額の確定だ。

 幸い保険料率の変更がない月なので、『月変』(保険料の随時改定)や年齢による保険料の変更を確認し、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料(狭義の『社会保険料』)をExcelに入力。

 雇用保険料の計算はそう難しくないが、被保険者負担分は現在一般事業で1000分の6となっているので、単純に0.6%かけて四捨五入しがちだ。これだとたとえば総支給額が205,750円の場合0.6%は1,234.5円なので1,235円になってしまう。ここでは説明は省くが1,234円にならなければならない。

 色々やり方はあるが、0.6%かけた値から0.00001円引いて、これを四捨五入することにする。もちろん電卓ですべて検算する。

 このあとで、総支給額から通勤手当の非課税部分と雇用保険料を含めた広義の社会保険料を引き、資料から『扶養親族等の数』を確認して所得税を出す。

 以前作ってその都度更新している所得税算出プログラムもあるのだが、これは検算用の1つとして使うことに決め、まずは国税庁発行の『所得税額一覧表』という1次資料から算出する。

 こうして『差引支給額』を確定し、電卓やオリジナルソフトなど考えられるあらゆる方法で確認する。

 給与ソフト健在のときも、検算として似たようなことはやっているので、数字の確定までは割とスムーズにいく。問題は賃金台帳の表記の方法だ。

 あとでソフトが復活してから差し替えるにしても、あまりお客さんに迷惑はかけられないので、いつもの給与ソフトの出力結果となるべく同じ書式となるよう試行錯誤でやってみる。

 出勤日数・労働時間・支給項目・控除項目等の順番は当然いつも通りとし、各ページの先頭列にそれらの項目が来るように何とか配置する。

 次に個人別給与明細の印字だ。
 これは、明細の書式がソフトの規格でハッキリ決まっているので、それに合うようにExcelの行・列のピッチを1pt単位で試行錯誤で整えていく。少々下世話な話になるが個人明細の用紙は1,000枚で税込定価15,400円(今は値上がりして21,120円)と結構高いので、まず証票を20枚ほどコピーして使う。

 幸い試行錯誤15枚目ほどで『商品として』使えそうな仕上がりにはなった。
 ただ、コピーを等倍にしても100%同じ大きさにはならないので、最終的には実物の明細用紙でチェック・調整して確定する。

 ここで、1つ問題が生じる。賃金台帳は非常に重要なものなので、絶対にコピーをファイルしてあるのだが、そこから自動的に生成される『個人別明細』は、普段何もしなくても出てくるので取っておいていないのだ。

 だから、いつもの明細でどの場所にどの項目が印字してあったのかは正確には分からない。恥ずかしながら『かくかくしかじかで、誰かの先月の明細を貸してください』とお願いしたら、聡明な事務担当者がご本人の明細を持ってきてくれた。

 勿論その方の明細ですべての印字場所が分かるわけではないが、何もない状態からしたら雲泥の差だ。多少いつもの印字場所と違っていてもやむを得ないと覚悟を決め、明細上の場所を決めていく。

 とにかく、とりあえずは何が何でも一覧表と個人明細を正確に作らねばならない。プロがpcの故障を言い訳にするわけにはいかない。給与は生活の糧だ。絶対にしっかりやってくれると思えばこそお客さんはうちに委託しているのだ。

 ソフトが使えないなら自力で計算するしかない。もし電卓も使えない状況ならそろばんはできないので筆算するしかないし、停電なら手書きで作るしかない。『三味が折れたら両手を叩け~♪』という歌もあるではないか(知らないか…)。とにかく『できませんでした』という選択肢はない。

 『実は、ソフトが使えなくなってExcelでやりました。一覧表はほぼいつも通りにできました。何度も検算したので間違いはないと思います。ただ、個人明細は、項目の場所が従来と違っている可能性があります。』と申し訳なさそうに言うと、『それは大変でしたね』と温かいねぎらいの言葉を頂いた。

 ちなみにその後、顧問先の文具店の技師の助言・紹介があり、某IT運用監視サービスと契約し、事務所の2台のネット攻撃対策をすることで、業務用pcをついにネット接続することにした。

 もちろん、月々それなりの経費は掛かるが絶対に必要なことなのでやむを得ない。給与ソフトも、ソフト配信の関係でスタンドアロン運用が不可能になる時期が迫っていたことも大きい。

 ’18年、米国防総省がハッキングされたように、一旦ネットにつないだ以上如何に防御を施しても攻撃の可能性は0にはできない。繋がないのが一番安全なのはハッキリしているが、ソフト運用が不可能となると、次善の策を取らざるを得ない。それでも、業務ソフトが入ったpcの方はメール設定もしないなど、可能な限りの対策は取っている。

 そんなわけで(どんなわけか分かりませんが)、今年もよろしくお願いいたします。

 

次 ー ₁₁₁.平均賃金を使うとき ー

 

※ 加筆
4~6行目 ちなみに~関係はない  '24.01.30

2024年01月05日