₁₁₉.年休中の給与は平均賃金でも可


平均賃金を使うとき③・有給休暇中の給与



年次有給休暇中の賃金については、多くの会社が『所定労働時間労働したときに支払われる通常の賃金』(以下『通常の賃金』)としているが、ー 94.年次有給休暇中の給与は3通り ー で書いたように法律上は次の3つの方法のどれかということになっている。
 

・ 年休中の給与の3つの方法

 ① 通常の賃金
 ② 平均賃金
 ③ 健康保険の標準報酬日額に相当する額

 このうち、③については労使協定が必要だが、①『通常の賃金』と②『平均賃金』については、会社の就業規則等で定めることによりどちらを採用してもよい
 

・ 月影さんの場合

 
 レギュラーの月影さん(基礎賃金 1,423円/h・前3ヶ月の給与総額 845,907円・前3ヶ月の総歴日数 91日)の場合、①『通常の賃金』と②『平均賃金』を比較すると次のようになる。

  『通常の賃金』   ➡    11,384円/日   ( 1,423円/h × 8h/日 )
  『平均賃金』    ➡    9,295円68銭/日( 845,907円 ÷ 91日 )

 年休中の給与として『平均賃金』を使う場合の1日分の支給額については、ー 94.年次有給休暇中の給与は3通り ー で書いた通り、直近3ヶ月(より正確には、年休開始日前の直近の給与〆日以前3ヶ月間)の残業状況等によりかなり変わってくる。

 残業が少ないフルタイムの月給の方なら、『通常の賃金』よりかなり少なくなるのが普通だ。
 

平均賃金を使うメリット・デメリット

 
 当然、年次有給休暇中の給与として『平均賃金』を使うことには、メリット・デメリットがある。
 

・ 平均賃金のメリット

 
 メリットとしてまず挙げられるのが、日ごとの所定労働時間が変わる場合でも1日当たりの金額が一定になるという点だ。シフト勤務の場合など、その日によって所定労働時間が8時間だったり2時間だったりしても、『年休中の給与は平均賃金』と規定してあれば、支給額は変わらない。

 また、そういう方に、年5日の義務的取得や退職前の連続年休などで『無理やり』シフトを入れて年休を取ってもらう場合など、『通常の賃金』では1日の所定労働時間を確定しがたい場合も、支給額をすぐに算定できる。
 

・ 平均賃金のデメリット

 
 デメリットとして筆頭に挙げられるのが、事務作業が煩雑になる点だ。平均賃金の算定自体は特殊な場面以外はさほど難しいわけではないが、同一人が同じ月に年休を何日かあるいは連続して取る場合を除くすべての場面で、誰かが年休を取るたびに平均賃金を算定しなければならない。

 平均賃金を使う他の場面は、たまにあるかないかというところだが、年休取得はごく日常的なので、そのたびに平均賃金を算定するのはかなりの手間になるのだ。 

○ 連続年休は初日が基準

 たとえば月末〆の会社で、同じ方が2月29日から3月2日まで年休を取ったのなら、すべて11月~1月分で平均賃金を計算してよい。これが2月29日と3月2日が年休で、3月1日は出勤したという場合は、3月2日の分は12月~2月分で計算しなければならない。
これは、

『年次有給休暇を与えた日(年次有給休暇が2日以上の期間にわたる場合は、年次有給休暇の最初の日)』

が、平均賃金の『算定事由発生日』となっていることによる。『通常の賃金』を支払う場合なら、こんなことは知らなくても大丈夫だ。
 

労働条件が変更になった場合

 
 残業状況等による平均賃金の変化は前に書いたが、これは労働条件を変更したときも起こる。 ー ₁₀₀.日数・時数変更時の年次有給休暇 ー で登場してもらった古成さんに再び登場してもらうことにする。
 

・ 古成さんの場合

 古成さんは、'24年4月に、週2日5時間ずつのアルバイトから週5日8時間ずつのフルタイム正社員に転身した方だ。給与については、3月までは時給1200円・4月から月給24万円(年間所定労働時間1960時間)になったものとする。

 ここで、古成さんの直近の給与が次表の左4列のようになっていたものとすると、3月~7月に算定事由が発生したときの平均賃金は、右端列のようになる(見ずらいので、円未満は四捨五入し、1日年休を取ったときに支払う額とした。)。

    出勤日数   労働時間    給与    平均賃金
12月   9日    45時間   54,000円
1月   8日    40時間   48,000円
2月   8日    40時間   48,000円
3月   10日    50時間   60,000円   3,600円
4月   21日    168時間   240,000円   3,600円
5月   21日    168時間   240,000円   5,067円
6月   20日    160時間   240,000円   6,430円
7月    ー      ー      ー      7,912円

 この場合も、原則は、前月分まで3ヶ月間の給与を歴日数で割り、その金額が最低保障額を下回れば最低保障額を使うことになるが、こうした平均賃金算定期間中に日給等と月給の期間が混在する場合は、両期間で按分した金額を下回らないことになっている。

 この、『下回らない額』は、たとえば5月に算定事由が発生した場合は、2~4月のデータから、

{(48,000円+60,000円)÷ (8日+10日)× 60% × (29日+31日)
        + 240,000円 ÷ 30日 × 30日}÷ (29日+31日+30日)

となる。
 

・ 平均賃金はジワジワ変わる


 それぞれの月に1日年休を取った場合の給与額は、労働条件が変わった4月なら3,600円と、3月と同額だが、その後ジワジワと上がって7月で7,912円になる。その後は残業や欠勤がなければそのままだ。

 このように労働条件が変更になった場合、年休中の給与として『通常の賃金』を支給する場合には変更月から『年休時の給与』が一気に変更されるが、『平均賃金』で算定する場合には、それ以後3ヶ月間は前の労働条件が平均賃金に反映される。

 この3ヶ月のタイムラグは、もちろんフルタイム正社員がアルバイトに変更になるなどの逆パターンで月額給与が下がる場合も同様なので、従業員サイドからみると、年休中の給与が平均賃金の場合は、給与が上がった場合は3ヶ月待ち、下がった場合はなるべく早い月に年休を取得した方がトクになることが多いとは言えそうだ。

 

次 ー ₁₂₀.労働基準法の災害補償 ー

 

※訂正
・ 古成さんの場合
18行目 両者間 ➡ 両期間  '24.02.09
メインタイトル変更
平均賃金を使うとき③・年休中の給与 ➡ 年休中の給与は平均賃金でも可 '24.03.12

 

2024年02月06日