₁₃₁.日額固定の欠勤控除で思わぬ事態も



欠勤控除の方法①・続き

 
 前回、基礎賃金をそのまま使って欠勤控除額を算出すると、所定労働日数が多い月にほとんど欠勤した場合に1・2日出勤しても給与がゼロになるのはダメという話をした。これは常識的に考えても当然だろう。

 さらに、そこまでいかなくても最低賃金法に抵触する場合がある。前に『法の範囲内であれば』欠勤控除は社内ルールで可と書いたが、これも『法の範囲内』に収まっていない。
 

・『差引支給額がマイナス』は問題ない

 
 老婆心(老爺心?)ながら一応言っておくと、欠勤が多い月に社会保険料や住民税等の控除の結果『差引支給額がマイナス』になるのはよくあることであり、この話とは次元が異なる。その場合は、保険料等をその都度支払ってもらうのか後からまとめて控除するのかルールさえきちんとしていれば何の問題もない。
 

・ 月額基本給のみの場合

 
 当Blogは『給与計算Blog』《給与の一策》と銘打った以上、問題別に様々なパターンを出すと、自分の説明の都合で説例を変えているー要するに我田引水ととられてもシャクなので、ここまではほぼレギュラーの月影さんの例で押し通してきた。

 ただ、月影さんのように色々なファクターが入るとより現実に近くなる反面、理解が難しくなるという難点があるので、ここでは単純に

フルタイム『月給30万円』で他の手当はゼロ・年間所定労働時間は1960時間

の方の場合で考える。名前は『姫川さん』とする。例によって理由はない。
 この場合、姫川さんの基礎賃金と1日の単価は、

基礎賃金
     300,000円/月 × 12ヶ月 ÷ 1960h ≒ 1,837円/h

日額単価
     1,837円/h × 8h/日 = 14,696円/日

になる。

 ここで2024年度の場合でいうと、土日祝日(ここでは振替休日等、祝日法に規定する休日も含む。)休みなら年間所定労働日数は247日(1日8hで1976h)になり、基礎賃金は1,822円/h・日額単価14,576円/日
 つまり、1日の単価は120円下がることになるが、年間所定労働日数245日という年度でも所定労働日数が23日の月は存在するので、ここでは年間245日(1960h)で考える。
 

所定労働日数と欠勤控除額

 
 ここでは、上の姫川さんの例で、欠勤日数と月の所定労働日数による控除額の変化を示した。①等の丸数字は出勤日数を表している。

                 月の所定労働日数

  18日 19日 20日 21日 22日 23日
1日 14,696⑰ 14,696⑱ 14,696⑲ 14,696⑳ 14,696㉑ 14,696㉒
2日 29,392⑯ 29,392⑰ 29,392⑱ 29,392⑲ 29,392⑳ 29,392㉑
15日 220,440③ 220,440④ 220,440⑤ 220,440⑥ 220,440⑦ 220,440⑧
16日 235,136② 235,136③ 235,136④ 235,136⑤ 235,136⑥ 235,136⑦
17日 249,832① 249,832② 249,832③ 249,832④ 249,832⑤ 249,832⑥
18日 264,528⓪ 264,528① 264,528② 264,528③ 264,528④ 264,528⑤
19日   279,224⓪ 279,224① 279,224② 279,224③ 279,224④
20日     293,920⓪ 293,920① 293,920② 293,920③
21日       300,000⓪ 300,000① 300,000②
22日         300,000⓪ 300,000①
23日           300,000⓪

欠勤日数

 当然のことながら、所定労働日数が何日の月であっても、欠勤日数が同じであれば控除額も同じ金額になる。

 ここで、控除額の横の丸数字(出勤日数)に着目すると、たとえば所定労働日数23日の日に21日欠勤すると、月給30万円全額控除されるので給与は0円になる。この場合実際には2日出勤しているのにタダ働きになってしまう。これでは前回書いたようにお話にならない。

 またそこまでいかなくても、所定が22日の月に19日欠勤した場合(出勤3日)は、控除額が279,224円で支給は20,776円になるが、これは時給換算で866円。どの都道府県でも最低賃金を下回る。ここでは北海道の最低賃金960円/hを下回る部分についてオレンジ色で示した。東京・神奈川なら緑色のところでもOUTだ。

 さらに、姫川さんの月給は30万円だが、これより低い場合は、このオレンジ色緑色の領域がさらに上方に広がることになる。
 また、所定が18日の月に全日欠勤しても控除額264,528円で35,472円支給されることになり、法律上の問題はないが公平性の点で疑問を感じる方は多いはずだ。
 

・ 月に1日出勤したときの支給額

 
 ついでに、月の所定労働日数が18~23日のとき1日出勤(年休も含む)して他全部欠勤した場合の支給額を機械的に算出すると、日額単価と支給額は次のようになる。
 

                   月の所定労働日数
 月給  日額単価    18日   19日   20日   21日  22日 23日
35万円  17,144円  68,552円 41,408円 24,264円 7,120円 0円   0円
30万円  14,696円  50,168円 35,472円 20,776円 6,080円 0円   0円
25万円  12,248円  41,784円 29,536円 17,288円 5,040円 0円   0円
20万円    9,792円  33,536円 23,744円 13,952円 4,160円 0円   0円
18万円    8,816円  30,128円 21,312円 12,496円 3,680円 0円   0円

 『機械的に算出すると』などと気軽に言ってしまったが、もし就業規則に『欠勤時の控除額は1日につき「基礎賃金×所定労働時間」分を控除する』としか規定されていなければ、その『機械的な』算出方法が会社の欠勤控除のルールだ。

 18日の月に1日だけ出勤した月給30万円の社員に計算の結果、『1日出勤で5万円以上の支給はやたら多すぎるからちょっと減らすよ!』とかは言えないのだ。
 もちろん逆に計算結果が最低賃金に届かない場合は、自動的に修正される。
 

月平均の所定労働日数と欠勤日数

 
 これをもう少し一般化すると、月額基本給『X円』のみの場合、年間所定労働日数が『Y日』で、所定労働時間が毎日同じとすると、『A日』欠勤したときの支給額は、途中の端数処理を無視すると、

X円 ー X円/月 × 12ヶ月 ÷ Y日 × A日 = ( 1 ー 12 A / Y )X 円

ということになる。
 この式の『12 A / Y』の部分が月給に対する控除額の割合を示し、これを言い換えると

『欠勤日数』 ÷ 『月平均所定労働日数』

になる。
 年間所定労働日数が245日なら年平均は20.416…日/月になるので、欠勤が21日以上なら月給に対する控除額の割合が1を超え、支給金額が計算上0になることも納得できる。

 ちなみに、1日8時間労働での労基法上可能な最大限に近い260日の『年間所定労働日数』なら、年平均は21.666…日/月になるので、欠勤が月22日以上でなければ支給額は0にはならない。逆に言うと、所定労働日数が21日以下の月は、全日欠勤しても支給額が残る。

 いずれにしても、欠勤日数が多くてもそれに控除額を比例させるという『控除日額固定』方式をどこまでも押し通するいうのはムリなようだ。

 

次 ー ₁₃₂.出勤・欠勤日数併用の欠勤控除 ー 

2024年03月29日