₁₁₆.通勤手当ー非課税枠の限界



 通勤手当を支給するかどうかは会社の判断に委ねられているが、支給する場合は労働基準法上の『賃金』であることは当然で、離職票の月々の給与額にも算入されるし、当然労働保険料の徴収対象だ。

 社会保険料の『報酬』にも認定されるので、途中で会社の遠くに引っ越して通勤手当が上がると数ヶ月遅れて社会保険料が増額になるのもよくある話だ。ここでは詳しくは述べないが、通勤手当の上昇額がわずかでも、以後3ヶ月間の残業代等によっては社会保険料が増額になることがある。
 

通勤手当の非課税基準

 
 あらゆる意味で通勤手当は賃金とハッキリしているので、ここまで通勤手当の話題は出てこなかったが、ただ1つ、税に関してだけは非課税となる部分があることはご承知の通り。年末にもらう源泉徴収票では、通勤手当の非課税部分は全く無視される。

 そういうわけで、税金関係では通勤手当の非課税部分は最初から収入に入れないことになっている。これは給与計算に携わる方には避けて通れない話だ。通勤手当を、非課税枠に収まるように設定している会社も多いが、そうでない場合もあるので、ここはしっかり確認する必要がある。
 

・ 日割の通勤手当は非課税枠に注意

 
 特に、日割の通勤手当の場合は、月によって非課税枠に収まったり超えたりすることがあるので注意した方がいい。たとえば通勤距離2km~10km未満の非課税枠は月4,200円なので、1日200円支給する場合、たまたま月22日以上出勤すると非課税枠を超える
 もし24日出勤したら4,800円の通勤手当が支給されるが、この内600円は課税対象となる。

 個人の税金は年間トータルで考えることが多いが、これは明確に月ごとに算定するので、この方の翌月の通勤手当が4,200円を下回ったとしても非課税枠の『キャリーオーバー』はできない

 通勤距離の話になると元小学校教員だった私としてはこの『距離』を『道のり』と言い換えたくなるが、一般的でないので不本意ながら『距離』で通す。

 通勤『距離』と言った場合は、もちろん通勤経路に沿った『道のり』を指す。何十年か後、ドローン通勤が一般的になれば、文字通り数学的な意味での『距離』(2点間を結ぶ線分の長さ。要は物理的な最短距離)が基準になるかもしれないが。

 この『距離』(道のり)についても、実は『最短の道のり』が通勤距離とは限らない。冬季通行止め(北海道ではよくある)とかなら当然だが、そこまでいかなくても冬場凍結する簡易舗装で崖から落っこちそうになり本人にとってはその道を通るのは命がけという場合もある。

 実はそうした状況について当の本人から指摘されたことがあるのだ。その方は一度国道まで出て、そこから職場まで向かうルートを通勤していた。そういう場合はそのルートに沿った道のりを通勤距離としてよい。

 一応、通勤手当の非課税枠を記しておく。
 

・ 公共交通機関利用の非課税枠

             15万円

※ マイカー等と公共交通機関併用の場合は、この15万円を適用する。
 

・ マイカー(交通用具)使用の場合

通勤距離(片道)      非課税限度
0     ~  2km未満      0円
2km以上  ~  10km未満     4,200円
10km以上 ~ 15km未満     7,100円
15km以上 ~ 25km未満   12,900円
25km以上 ~ 35km未満   18,700円
35km以上 ~ 45km未満   24,400円
45km以上 ~ 55km未満   28,000円
55km以上           31,600円

 ただし、有料道路使用の場合は、『1ヶ月当たりの合理的な運賃等の額』(上限15万円)が適用される。
 

自転車通勤は非課税枠あり。マラソン通勤は課税!

 
 また、自家用車やバイクだけでなく、自転車通勤でもマイカーと同じ非課税枠が適用される。だから健康のためマイカー通勤から自転車通勤に切り換えたとしても通勤手当の非課税枠は変わらない

 ただここで、さらに頑張ってマラソン通勤にしたとすると、会社が支給した通勤手当はすべて課税対象となってしまう。人間業ではないが、仮に通勤距離が42.195kmでも非課税枠はない。これは『徒歩』通勤ということになるので、『交通用具を使っていない』という点で、自転車通勤との間には、越えられない大きな壁があるのだ。

 キックボード通勤ならどうか。非課税の基準は『自動車や自転車等の交通用具を使用している人に支給する通勤手当』というくくりなので、キックボードはおそらく交通用具に入るだろう。

 この辺でしつこい人は「竹馬通勤なら?」とか「スキー通勤は?」とか「かんじき通勤は?」とか言い出すころだと思うが(私だけか?)だんだん出来損ないの漫談っぽくなるので相手にしないことにする。どうしても知りたい方は税務署に直接聞いてほしい。
 

・ 通勤手当の支給は会社の規定による

 
 ただ、これらは通勤手当が支給されることが前提だ。
 交通用具使用の有無にかかわらず、通勤手当を支給するかどうかは会社の規定で決まるので、『マイカー通勤には通勤手当を支給するが、自転車や徒歩は不支給』という規定なら自転車でも徒歩でも通勤手当はそもそも不支給なので、課税か非課税か以前の問題だ。

 さらにそれ以前に、そもそも駐車場確保の問題や危険性・環境保護の観点からマイカー通勤を認めない職場もあるように、その交通用具の使用が通勤手段として認められるかどうかも会社の規定による。上のキックボードなども、どんなところだろうか。

 

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2024年01月26日